おかしな二人


現実的な苦しみと、心に蓄積した苦しみと、どちらが辛いのだろう。

借金で嫌な思いをしなかったといえば、全くの嘘になる。
けれど、さっき凌に言ったように、あたしの周りにはいい人が多かった。
焼き鳥屋の大将も、コンビニの店長も、便利屋の社長も随分とあたしに良くしてくれた。

そして、水上さんも。

凌は、どうだったんだろう。

一人家を出て、大学は奨学金で通い。
両親のいない二十歳前の子供が、一人で暮らしていくのに苦労をしなかったはずはない。

あたしのように、良くしてくれる人は、いたんだろうか。
そう考えれば、寧ろ犠牲になったのは、凌のほうじゃないだろうか。

「後悔なんてさ、するだけ時間の無駄だよ。今の仕事、順調なんでしょ?」
「ああ」
「それが、総てじゃない」

あたしは、笑って見せる。

「なんだか、どっちが年上か解らないな……」

凌が、苦笑いのような笑みを零した。


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