おかしな二人
「あたしさ。自分がこんな風に素敵なお店で食事をしたり、英嗣から買って貰った可愛いコートを着たりできるなんて、ちっとも考えたことなかったよ」
あたしが話し始めると、水上さんはただ黙って耳を傾けてくれる。
「毎日できる限りたくさんの仕事をして、ただ黙々と借金を返して。いつかは、こういう生活から逃れたいと思っていたけど、そんな日が来るとは到底思えなかった。だから、同じくらいの子達のように買い物をしたり、食事をしたりなんてことを想像する事もしなかった。……ううん、違うな。想像しないようにしていたんだ。だって、そんなの想像したって無理なことだし、悲しくなるだけだから……」
華やぐ店内とは裏腹に、あたしが話し出した話題のせいで、このテーブルだけがしんみりと色を暗くしていく。
まるで、夕暮れの帰り道、たった一人で誰も居ない家に帰って行くみたいだ。
自然とあたし自身の表情も冴えなくなり、笑顔も薄くなっていった。
「最初は、借金なんてすぐに返せる、なんていつもの調子でお気楽に考えていたんだけど。一年経っても、二年経っても、利息を払うだけで精一杯。こんなに働いてるのに、現実は厳しいなぁ、なんて項垂れて。それでも、働いて少しでも返さなきゃもっと借金は増えていっちゃう。だから、働いて、働いて……。頼る人なんか居なかったけど、それでも働いた先の店長や大将は、いつもよくしてくれていたから、それだけでも恵まれてるって思ってた。そしたら、突然英嗣が現れた」
「なんや、突然なんて、泥棒やお化けみたいやな」
水上さんは、ここの空気を少しでも明るいものにしようというように、少しだけ笑いを含ませる。