おかしな二人


ギシギシと心臓をいたぶる感情は、高級アクセサリー店で感じたものと一緒だった。

あたしの病気は、胃潰瘍でも、心臓疾患でもない。
恋わずらいだ。

困ったなぁ。
雇い主に恋心を抱くなんて。

こんな気持ち、英嗣に気付かれたら、今度こそ本当に出て行かなくちゃならないかもしれない。
人気のミュージシャン相手に本気になったって、叶うはずないもの。
大体、働かせてもらっているってだけでも、充分すぎる事なんだから。

それでも、こうして繋がる手に期待をしてしまうあたしは、愚か者かもしれない。

英嗣は、どうしてあたしなんかの手を握っているんだろう。
クリスマスの記念すべき日に、どうしてあたしなんかと一緒に居るんだろう。
そのプレゼントを持って、今すぐにでも想う相手のところへ行くべきなんじゃないだろうか。

繋がる手に引かれ、後ろ向きな考えばかりが前に出る。
コートのポケットに忍ばせてあるちゃちな品物が、あたしを惨めにさせていく。
携帯についたタコのストラップが、期待するなと揺れている。

あたしはそのタコをぎゅっと握り、気持ちを抑え込んだ。


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