おかしな二人
「どあほ、だって……」
声に出して、わざと笑ってみた。
けれど、上手く笑えない。
「どあほ。……どあほ。……あほ。あほ……なのは、あたし……」
明の、あほ……。
どうして気付いてあげられなかったのよ。
ちゃんと凌の気持ちに気付いていたら、あんな風にマンションを飛び出すこともなかったじゃない。
ちゃんと話をして、お互いにいい距離を保って、家族として生きていけたかもしれないじゃない。
敷かれた絨毯に向かって深々と溜息を吐いている所へ、玄関ドアの開く音がした。
程なくして、リビングのドアを開け英嗣が顔を出す。
「なんや。起きとったんか」
「……うん」
英嗣は、荷物をドサリと床に置くと、真っ直ぐ冷蔵庫に向かってミネラルウォーターを取り出した。
蓋を開けると、一気に半分ほど飲み干す。
「はぁーっ。マサシの相手は、疲れるわ」
そう言うと、ドカリとあたしが背凭れにしているソファに腰掛けた。
「マサシさん。……どうかしたの?」
背中に英嗣を感じながら問いかける。
「ん? まぁ、たいした事やないんやけどな。ちょっと色々あってな、自棄酒や。さっきも、哲と三人でタクシー乗ってそこまで来たんやけど、俺が降りるんでドアが開いた途端、マサシが突然叫びおってからに」
ほんま、敵わんわ……。と零すと、残りの水をまたグビグビと飲む。
「もしかして、どあほって叫んでたの、マサシさん?」
首だけ少し振り向かせて訊ねる。
「おお。せやせや。ここまで聞こえとったんかい」
真夜中だっつーのに、あいつアホやろぉ? と言うと、英嗣はケタケタ声を上げて笑う。
屈託なく笑う姿に、さっきまでどんよりとしていた気持ちが少しずつ晴れていった。