おかしな二人
英嗣は、あたしの返事に気を悪くするでもなく、一応渡しとく、と鞄の中からチケットを取り出しくれた。
ライヴかぁ。
そういうの、一度も行ったことないや。
頭の中にある少ない情報だけでイメージすると、やたらと人が多くて、疲れる、というのが一番に浮かんだ。
おかげで、全くライヴというものに興味が湧かず、貰ったチケットは無造作に財布の中にしまいこんだ。
リハーサルがあるとかで、英嗣は三一日も早々に家を出る準備。
あたしは、いつもどおり玄関先までお見送り、その後ろをついて行く。
「ほな。行ってくる」
「うん」
「ライヴ、来られるんやったら、気いつけてな。結構な人がおるさかい、もみくちゃにされんで」
「はは。わかった。ありがと」
もみくちゃ、と聞いて、益々行く気が失せた。
「英嗣も、年内の仕事納め。頑張ってね」
「ん。ほな、行ってくる」
「いってらっしゃーい」
ひらひらと手を振り、ドアの閉まる音を聞いて鍵をかける。