DL♥ロマンティックに抱きしめて。
ゆっくりと顔を上げる先生が、ほっとしたような顔を見せる。
そして「分かった。」と呟き、ゆっくりと言葉を続けた。
「…くみ。君のお母さんの8番だが…。
パノラマ上、完全に神経に被っていたんだ。」
「…え…。」
8番は親知らず(知歯)、パノラマとは歯だけで無く、顎の骨や下顎に伸びる大きな神経(下歯槽神経)が映っているレントゲン写真の事。
国家試験を控えていた私には、あの時とは比べ物にならない程に知識は備わっていた。
先生の言葉を一つ一つ理解していく。
「…CTで問題が無ければ良かったのだが。
…ギリギリの所に下歯槽神経があった。」
部位の密度や形だけでなく、高さ、太さなど精密かつ立体的に確認する事のできるCT。
表面上であるパノラマで神経の位置が歯と被ったように映っても、CTを使う事で、その神経が歯よりも前後にずれていたりする場合には、何の問題も無く抜歯が出来る。
けれど…
お母さんの場合、それが、極めて危険な状態だった…って事なんだ。