俺の姉(+従姉)たちが個性的すぎる件について
籠なんてものはついてないから、背中にバッグをリュックの様に背負って、
コバルトブルーの自転車を滑らせた。
学校を出て、長い大通りを通って、住宅街に入って少し。
普通くらいの大きさの、
ご近所さんと特に見た目の変わらない、一軒の家の前に止まって、自転車を入れた。
家も平凡である。
ここまでは、期待を裏切らないかと思うけど。
「ただいまー」
「お、時雨、帰ったか」
リビングからひょこっと頭が出てくる。長い黒髪が少しだけ揺れた。
「ただいま、神楽姉」
はい、まず一人目。
久保 神楽-Kubo Kagura-
久保家の長女で、一言で説明するなら
『完璧超人』
小学校、中学校、高校、全てにおいて主席卒業。
長くさらさらとした漆黒の髪。整った顔立ち。
現在大学三年生の俺の一番上の姉、神楽姉は非の打ち所がないのだ。
それでもって、さっぱりとした性格なので男はもちろん、女からも人気。
『才色兼備』や『完璧超人』という言葉は、神楽姉のためにあると半ば俺は思っている。
「今、夕飯作ってる途中だ。手伝え」
「ラジャ」
自分の部屋に入って、荷物を置き、素早く部屋着に着替える。
ここまでの所要時間3分。
早くね?少し自慢。
幼少期から今も両親が共働きをしている俺の家は、手伝いをする、というのが当たり前だ。
それもあって、帰ってからのこの技術は無駄に鍛えられた。
カップラーメンができるくらいの時間で準備を済ませ、リビングへと向かう。
「きゃー!!」
といきなり、サスペンスドラマが始まりそうな、悲鳴が聞こえた。
「どした!?」
慌てて、声のしたキッチンを覗きこむ。
「あ、時雨。お帰りー」
その悲鳴を上げた人物は少し目を見開いてこちらを見て、にっこり微笑んだ。
はい、続いて二人目。
久保 羽衣-Kubo Ui-
久保家の次女。現在大学一年生。
栗色で毛先が少し内側にくるっとしているミディアムの髪型。大きい目が印象的なくるくると表情が変わる顔。背は少し低め。
久保家の家事をほぼ全部やってくれている、しっかり者の姉である。
特に料理が得意で、栄養のバランスとかに厳しい。
だから、俺もうるさくなったんだと思う。
青磁に言わせると、
女子力とかいうものが、すごく高い…らしい。
俺が幼いときから、ずっとこんなんだから、いまいちピンと来ないけどさ。
「おう、ただいま…じゃなくて、どーした?」
「え、何?」
「それ、こっちのセリフ。…今、悲鳴あげてたけど、どうした?」
「?…あぁ!」
手をポンと打つ。
って忘れてたのかよ!
「神楽姉が、包丁を持とうとしたから、慌てちゃって」
「…それは慌てるわ」
あぁ、さっき説明し忘れてた。
神楽姉、実は
料理が大の苦手である。
えっ?それだったら完璧じゃないじゃんって?
…まぁ、このくらいならギャップとして見られるんじゃないか、多分。
女で料理できないのはいかがかとは思うけど。
んで、神楽姉に料理をさせると…思い出すだけで恐ろしいものができる。
見た目も色も味も、未知なものが。
「うっかりしてたー。あっ、でも大丈夫だよ。包丁死守したから!」
「ならいいんだけど」
「じゃあ時雨。サラダ用の野菜用意して!」
「ん」
野菜切るだけですら、包丁を持たせてもらえない神楽姉。
哀れというか、仕方ないというか。
とりあえず俺は、まな板の上に置いてあった胡瓜を洗った。