その一枚が恋だと気付くのに、どれほどの時間が必要だろう
「うちの演劇部、文化祭が三年生最後になるから、三年生が全員舞台に立つの。

でも、私は辞退した。

さっきの言葉に嘘はなく、演劇は好き。

それに部員のみんなが嫌いというわけじゃない。

だからこそ、こんな私が舞台に立つことが失礼だと思って、どうしても舞台に立つ気になれないの」


その目にはうっすらと涙が出ていた。



きっと、彼女は何度もこのことに対して悩み、悩み抜いた結果が辞退という形だったのだろう。

でも、そんなことって・・・



「部長は私の役と台詞はぎりぎりまで用意してくれているって言ってくれているけど、今の私にはもう無理よね」


そんな悲しい表情をしないで


僕の知っている木ノ内さんは、凛としていて、物静かだけど、それでもどこか芯のようなものがしっかりとしていて堂々としている。

それでいて、柔らかく優しい笑顔の持ち主なのだ。

だから、そんな悲しい表情は似合わない。
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