花火
 

高校の近くである花火大会の日だった。


みんなが楽しむ中、私は付き合っていた彼氏、雅也にフラれた。


もう全てがどうでもよくなって、自棄になっていた私は、帰り際花火をボーッと見てた人に声をかけてしまったんだ。


ちゃんとした背広着てたし、ヤバイ人ではないだろう、って思ったのもあって。


それが田辺先生で。


──ある意味、都合が良かった。


私は直接教わったことはなかったけど、田辺先生は学校ではすごく人気のある先生。


教わったことのない私でさえ知ってるくらいの有名人だ。


きっと私のことなんて知らないだろうけど、そんな先生ならきっと、優しく慰めてくれると思った。


その時の私は誰でもいいからすがりたかったんだ。


……でも、私の予想に反して、私が思っていた“優しさ”なんて、これっぽっちもなかった。


先生は学校の顔とは全く違っていたから。


タバコは吸ってるし、口調は教師をやっている人のものとは思えない感じだったし、表情も別人かと思ったくらいに。


でも、それが逆に私を安心させた。


……今思うと、その姿が私をあんなに大胆にさせたんだと思う。


表と裏の顔を持つ。


……きっと種類は違うけど、私もそうだから。

 
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