花火
「──あちっ」
いつの間にか短くなってしまっていたタバコが、俺の手からまだ熱さの残るアスファルトの上にポトンと落ちた。
……女に見とれて火傷とか、アホすぎるな。
俺らしくもない。
はぁ、と嘆息し、道に落ちてしまったタバコを手に取り、簡易吸い殻入れにタバコを押し込む。
──ドーン!
周囲を花火の光が照らす。
ふと顔を上げると、女の後ろに花火が上がるのが見えた。
……いつの間に?
気付いた時には、俺と女の距離は数十センチまで近付いていた。
手を伸ばせば触れることのできる距離。
女は俺のことを見下ろし、目を真っ直ぐ見据え、ゆっくりと口を開く。
「…………ねぇ、ちょっと慰めてくれない?」
「……は?」
その顔は無表情。
慰める、って意味わかんねぇんだけど。
何言ってんの?この女。
……あぁ、もしかしなくても、逆ナンとか身売りってやつか?
……身売り、って表現古くさいけど。
街を歩いているとたまに声を掛けられることがあるから、こういうことにはそこそこ慣れていた。
別に女から誘われるのは嫌いではないし、むしろ大歓迎だけど、その誘いに乗るかどうかは状況にもよる。
この状況はどう考えても乗るのは良くないパターンだ。
泣いてる女に関わるとろくなことがないってことは、経験済みだし。
関わらない方がいい、と俺は判断した。