花火
 

──普段めったに他人に興味なんて持つことのない俺が、珍しくそう思ってしまった時点で敗けだったんだ。


偶然出逢っただけの、見知らぬ女。


別にどうなろうと知ったことではないのだから。


なのに──……



「待て」



俺はガードレールから立ち上がり、女の腕を掴む。


女が振り向いて俺の顔を見上げた。


涙で濡れたその大きな瞳は、キラキラと輝く。



「……わかったよ。少し話聞くくらいならしてやる。それで気が済んだら、真っ直ぐ家に帰れ。それでいいだろ?」



こんな言葉が出たのは、きっと職業柄だ。



「…………話?あたしさ、今人肌恋しいんだよね。だから話なんてどうでもいいし、何も話すことなんてないんだけど」



「人肌、って、お前本当に……」



そういうコトを望んでるってことか?


見知らぬ男とヤってもいいって?


疑うように女のことを見ていると、女は諦めたようにハァと息をついた。



「──……まぁいいや。じゃあちょっと付き合ってよ。人といれば少しは気が晴れるかもしんないし」



待て待て待て。


それで気が晴れなかったらどうするんだよ?


またそういう男を探しにフラフラと歩き回るのか?


そんなの後味悪すぎる。


……俺次第かよ……。


…………すっげぇめんどくさいことに巻き込まれた気がする……。

 
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