交換ウソ日記
まさかー。いや、それはない。ない……ない?
告白から今まで受け取った手紙に、私の名前が書かれていたことはない。
さすがに名前を知らない、なんて考えたことなかったけど、これあり得るんじゃない?
だって話したこともないし、接点もない。
名前を知らなくても不思議じゃないよね。
私だって、瀬戸山のフルネームは知っていたけど、それは瀬戸山だからだ。瀬戸山以外に理系コースで名前を知っている人なんていないもん。
名前知らなくて前から気になってたとか……ありなの?
「どっちにしても、断るしかないよね……」
知ってるか知らないかは、この際どっちでもいい。
気にはなるけど、それは置いといて。
単刀直入に付き合ってほしいと言われたからには、それに対してのイエスかノーかを伝えなくちゃいけない、よね……。
白黒はっきりさせるのは苦手なんだけど、そうも言ってられない。
「よし」と小さく気合を入れて、彼の手紙の下に、いつもよりも少し丁寧な文字で“ごめんなさい”とだけ書いた。
……これでいいのかわからないけど……。
ちゃんと“お付き合いはできません”とか書いたほうがいいのかなー。
それだとちょっと冷たくない? そっけないかな。傷ついちゃったりしない?
お断りするのも難しいな。
ラブレターは初めてだけれど、告白されたことだって一度しかない。しかもそのときは断りきれずに付き合うことになった。
そう考えると、瀬戸山はすごいなと思う。
面と向かって勇気を出してくれた人に、自分の気持ちを伝えることができるなんて。相手の女の子が泣いたとしても。