ボレロ - 第三楽章 -
「浅見君の目的はなんだ。君は知っているのか」
「いいえ、それがわかりません。単に近衛と須藤へ妨害工作をしているとは思えま
せん。
なんらかの理由があるはずですが、それがつかめずにいます。
彼女の単独なのか、協力者がいるのか、それも不明です。
私なりに調べましたが、ひとりの力では限度があるので」
「それで、俺や知弘さんに自分の姿を見せたのか」
ひとりではわからないことも、力が結集すれば見えるものがありますからと、堂本
の答えはもっともだった。
「君がそこまでするのはなぜだ? なにが君を動かす。こういってはなんだが、
知らぬふりもできただろう。
わざわざ危険をおかしてまで調べるには、それなりの理由があるはずだが」
それまで間髪いれずに返事をしていた堂本が、このときばかりは言葉を詰まら
せた。
手元をじっと見つめていたが、拳を握り締めたあと搾り出すような声が聞こえて
きた。
「ある人の顔を曇らせないために……その人の平穏を脅かすものは、誰であっても
許すわけにはいきません」
「浅見君は、その人の立場を脅かしているというのか」
「そうです。いまはまだ直接の被害はありませんが、いずれ……ですから、その
まえに食い止めなければ」
「それは誰かと、聞いてもかまわないだろうか」
「すみません。それだけは……」
「うん、無理に聞いて悪かった」
「いえ……申し訳ありません」
堂本の表情から 「ある人」 とは、彼にとってよほど大事な人であろうと思わ
れた。
誰なのか……素直に浮かんだ疑問だが、彼の口から聞くことは叶わないようだ。
彼が想う相手だろうか。
一連の騒動に巻き込まれた女性の顔を思い浮かべた。
柘植さん 雅ちゃん 珠貴……
まさか、珠貴なのか?
そう思ったがすぐに打ち消した。
珠貴であれば、堂本はもっと早く動いているはずだ。
もしや、浅見君なのか?
彼女の暴走を止めるために……いや 考えすぎだろう
しばらく考えたがまったくわからず ”わからないな” と思わず声にしていた。
私の顔を見て堂本が苦笑いしている。
「やはり気になりますか」
「聞かないと言ったんだ、君に聞くわけにはいかないだろう。自分で考えるしか
ないじゃないか」
「正直な方ですね。それで、わかりましたか?」
「だから、わからないと言っただろうが」
「そうでした、すみません」
ははっ……と笑う顔に 「笑うな!」 と一喝したが、言葉ほど腹は立っていない。
堂本の一途さを垣間見たような気がした。