ボレロ - 第三楽章 -


「教えてもらいたいことがある。君ならわかるのではないかと思ってね」


「私でわかることでしたら」


「知弘さんと妹のことは知っているな」


「はい、存じております」


「子どもが生まれることも」



はい、とうなずいた堂本へ疑問をぶつけた。



「浅見君の本当の目的はわからないが、俺だけでなく会社や須藤の関係者に対し

妨害工作をしている。双方にとってなによりもダメージが大きくなる情報なのに、

知弘さんと静夏のことをマスコミに流さないのはなぜだ。

それともこれは最後の手段なのか……俺たちも、二人のことが漏れるのを何より

恐れている」


「それでしたら大丈夫でしょう。おそらく漏れることはないかと思われます」


「なぜそう言い切れる」


「社長入院の記事が掲載されたときと、同じ現象が起こるからです」



うん? と怪訝な顔をした私に、噛み砕くような説明があった。



「専務と静夏さんのことが記事になったとします。真っ先に須藤専務に取材が集中

するでしょう。社長の入院の取材であれば応じないわけにはいきませんが、プライ

ベートに関する取材となるとどうでしょう。 

おそらく専務は取材拒否なさるのではないでしょうか。

そうなると、彼らは事情を知っているであろう人物を探します。 

そばにいる秘書へ取材が殺到することが予想されます」


「自分へ目を向けないためか」


「はい。自らを危険にさらすことになりますので」


「そういう理由か……おかしいと思ったんだ。こうなると、首謀者は浅見君以外に

考えられないな」


「浅見さんは今回の件でマスコミに顔を知られましたから、しばらく動きは

ないでしょう。そのあいだに何かをつかめればと考えています」


「わかった。全面的な協力体制を敷き立ち向かう必要があるな。これからも頼む」



はい、と力強い返事だった。

コーヒーでもいかがですかと聞いてきた堂本が携帯の着信に気がつき、発信者の

名を確認すると私に向き口に指を立てた。



『はい、さきほどお帰りになりました……いえ、今夜はホテルへと伺っています

が……はい、失礼します』


「浅見さんから、副社長は今夜はどちらにお泊りですかとの確認でした。

ホテルに戻られたら、浅見さんが待っているでしょう」


「俺に何の話がある。はっ、今夜の首尾を探るためか」


「おそらくそうでしょう。私と副社長がここに残ったので、どんな話がかわされた

のか、彼女も気になっているはずですから」


「そうだろうな。適当な返事をして帰ってもらうとするか」


「用心のために、お部屋にはお通しにならない方がいいでしょう」
 

「彼女が俺を誘惑するとでも? ははっ、まさか」


「いえ、そうではなく……とにかく、彼女には気をつけてください」


「わかった、わかった」



堂本は別れる間際まで私を心配していたが、大丈夫だ、任せておけと伝え、彼と

別れてホテルへと向かった。


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