ボレロ - 第三楽章 -
宗と知弘さん、堂本さんと私、そして、浅見さんを良く知る平岡さんと真琴さんを
加えた6人が集まり、今後の対策を話し合うことになった。
むろん、浅見さんには会合の開催は知らされていない。
堂本さんが協力者となってからというもの、私と宗は望めば会えるようになって
いた。
それについては堂本さんの力が大きいのだが、長いあいだ彼を疑っていた私に
とって、素直に感謝の気持ちを表すことに少々の抵抗があり、堂本さんと同じ
席につくことに居心地の悪さを感じながらここへ出向いた。
知弘さんから内々に調べてきた事柄が報告され、平岡さんと真琴さんの力が必要
だと伝えられる。
一連の騒動の首謀者は浅見さんとみて間違いないと聞かされても、平岡さんと
真琴さんは半信半疑の顔だった。
それでも平岡さんからは、今までの経緯から彼女に違いないのでしょうね……と
辛そうな言葉がもれた。
真琴さんは、自分が育てた部下を疑いたくはない。
信じてやりたいと言っていたが、私が浅見さんに感じた不信感とその理由を述べ
『筧』 の件で彼女のウソが見えたことで、浅見さんへ疑いが増したのだと話すと、
強い衝撃を受けたのだろう、苦痛に満ちた顔を両手で覆ってしまった。
「副社長と浅見さんのラウンジの写真は仕組まれたものでしょうが、
彼女が事前に雑誌社に情報を送るには、時間的に無理がありそうですね」
「では、彼女には協力者がいたと?」
「これまでの行動を振り返っても、浅見さん一人の仕業ではないのではと考えてい
ました」
「誰かしら……マスコミを利用したのだから、その方面へ詳しい人物かもしれ
ないわね。広報……あっ、近衛本社の広報にいる人かも。
浅見さん、本社におつきあいしている男性がいると言っていたわ。もしかしたら」
私の話を聞いていた堂本さんの顔が驚いたあと、ふっと笑った。
それは、よくわかりましたねと褒めてくれているような笑顔だった。
「広報とは思いつきませんでした。広報の社員ならマスコミに精通していますね」
平岡さんと宗が顔を見合わせて、まさか……と信じられない顔をしている。
「浅見さんと親しい人物がいれば、かなり可能性が高いかと」
「わかった。調査部に手を回してみよう」
「お願いします。私はまだ入社して間もないので、本社内部には疎いもので」
任せてくれと宗が堂本さんに約束したあと、それまで悲痛な顔で座っていた真琴
さんが 「それでしたら、私に心当たりがあります」 と言い出した。
「浅見里加子の同期で、広報に配属された中島という男性社員がいましたが、
一昨年退社しております」
「あぁ、いましたね。確か彼は問題を起こしてやめたはずだが、浅見さんの同期
だったのか」
「問題といったな。何があった」
宗の問いかけに答えたのは真琴さんだった。
苦痛な表情が痛々しくあったが、口調ははっきりと迷いがない。