ボレロ - 第三楽章 -
廊下を走る足音が聞こえてきた。
二人……三人だろうか……いや、もっと多い人数だ。
ドンドンと玄関ドアを叩く音がして、待ち焦がれた人の声が聞こえてきた。
「珠貴! いるのか! いたら返事をしろ」
「ここよ、早く来て!」
大声で叫ぶ私を、腕の中の浅見さんが信じられないと言った顔で見ている。
「私の言ったとおりだったでしょう?」
痛みに苦しむ彼女から離れ玄関前に走った。
「鍵は開いているわ。でもドアが開かないの」
「待ってろ!」
ガタガタと物を動かす鈍い音がして、玄関ドアが開けられると、数人がなだれ込むように入ってきた。
すぐに宗の腕に抱えられたが、私は奥にいる浅見さんが心配だった。
「浅見さんが大変なの。お願いします」
最後に姿を見せた沢渡さんに必死に訴えると、私の声を聞いた沢渡さんは部屋の奥へ走っていった。
平岡さんが 「蒔絵から連絡があり、先輩にすぐ知らせたんですよ」 とホッとした顔で言い……
「浜尾課長はマンションの外で身柄を捕らえました」 霧島先輩と櫻井さんが睨みを利かせてますと笑っている。
「柘植さんにミニチュアコレクションの謎をといてもらいました」 と潤一郎さんが穏やかに伝えてくれた。
奥から誰かきてくれと沢渡さんの声がして、平岡さんと潤一郎さんは走っていった。
「遅くなった。マンションを特定するのに時間がかかったんだ」
「どうしてわかったの? 浜尾課長を調べたの?」
「中島を調べていた櫻井君が、浅見君から電話があったと中島から聞き出してくれた」
「そうだったの……」
「電話で俺の名前をわざと呼んだだろう。あれで君が普通の状態ではないとわかった。怖い思いをさせたね」
「うぅん、あなたが見つけてくれると信じてたから」
宗の腕が私を抱きしめる。
温かな胸は心地良く、瞬く間に緊張をほぐしていった。
安心したのだろうか、手足の力が抜けていく。
目を開けていられなくなり 「宗……」 と声にならない息を吐きながら、意識が次第に遠のいていった。
私の名を呼ぶ声が耳の奥に響いていたが、その声はまもなく聞こえなくなった。