ボレロ - 第三楽章 -
真夜中のパーティーは、夜を徹して続いていた。
男たちがグラスを手放さないのを見て、ときには飲んでみようかと思った。
羽田さんにその旨を告げると 「飲み口の柔らかいものをお持ちいたしましょう」 とシャンパンを用意してくれた。
シャンパングラスを灯りにかざす。
小さな気泡が浮かび次々と消えていくさまは儚く、けれど美しい。
磨き上げられたグラスに口をつけ、ゆっくり傾けた。
爽やかな液体が弾ける泡とともに、舌の上をころがり喉へと伝わる。
のどごしが良いとはこんな味わいをいうのだろう。
ワインもビールも苦手な私の味覚が、このシャンパンは美味しいと評価を下した。
めったに口にしないアルコールが体内に入ったからだろうか、酔いで鈍くなった感覚もあれば、研ぎ澄まされる感覚もある。
なぜだろう……の思いが、次々と頭に浮かび思考がクリアになっていた。
飲んで朦朧とするのかと思っていた頭は、私の場合は敏感になるようだ。
グラスの泡を見ながら、考えては飲み、また泡を見つめる。
浜尾直之へ解雇を言い渡した時に見せた不敵な笑みが、妙に心に引っかかっていた。
私の手のシャンパングラスに気がついた珠貴は、珍しいものでも見る目をした。
事実、私の手とシャンパングラスはめったにない組み合わせだった。
「このシャンパンは本物でしょう? 大丈夫なの?」
「少しならね。これ美味しいよ」
「お酒が美味しいなんて、ますます珍しいわね」
「自分の限界はわかってるよ……珠貴、気になることがある」
「なぁに?」
「浜尾直之だが、あのままで終わらない気がするんだ」
私の言葉はみなの耳にも届いたようだ、友人たちが一斉に振り向いた。