ボレロ - 第三楽章 -
浜尾君、櫻井君、浅見君が並び、今日のメンバーがそろった。
結歌さんは全員が初対面だったが、珠貴とのつながりを聞き 「初めてお会いした気がしないわ」 と、気さくな顔を見せたが、漆原さんは浅見君の登場に戸惑っていた。
「あのときの秘書さんですか……」 と私に確認し、なぜ浅見君がこの場にいるのかを問いただす顔をしている。
「いろんなことがあったが、最終的に珠貴は彼女を受け入れた。わだかまりはないそうだ。
そんなことから、浅見君は珠貴の力になりたいと言ってくれたんだ」
「そうですか……浅見さんがここにいるってことは、珠貴さんが承知したってことですね」
「珠貴の個人秘書を務めてくれるらしい」
「浅見さんが珠貴さんの個人秘書ですか。うーん……珠貴さんも大きな人だな、やっぱりただ者じゃない」
浜尾君や櫻井君は事情を知っていたが、何もかもが初めての結歌さんは、いちいち感心して驚いている。
「そういうことだったのね。
宗さんが珠貴を一人にしておくはずないと思ったけど、浅見さんのような方がサポートしてくださっていたのね。
安心しました。
では、浅見さんは珠貴がどこにいるのかご存知ね?」
「はい、存じておりますが、私から申し上げることはできません。室長とのお約束ですので」
「というわけで、いまだに俺も知らないんだ。浅見君が珠貴を信じてるなら、それでいいよ」
私の言葉に漆原さんがうなずいた。
信頼関係がわかったと了解してくれたらしい。
「それで、このメンバーが顔をそろえた目的は? 俺に声がかかるのは最後だと思ってたけど」
「漆原さん、最後ってどういうことですか」
櫻井君の問いにほかの三人も顔を見合わせた。
疑問はみな同じようだ。
「宗一郎さんと珠貴さんの結婚が決まったら、俺が独占インタビューをして、どこよりも早く記事にする約束だったから……
えっ 決まったんですか!」
「決まってないが、決めようと思う」
5人の顔が一斉に私を向いた。
櫻井君と浜尾君は予想していたのかさほど驚いた顔ではないが、浅見君と結歌さんは 「えっ」 と言ったきり動かない。
漆原さんが一人、ニヤリと笑みを浮かべている。
「珠貴の誕生日までに婚約するつもりだから、結婚指輪のデザインを探ってひそかに準備しておきたいって。
宗さん、だから私と蒔絵さんに……
決めようと思うって、婚約後すぐに結婚するつもりですか?」
「そうしようと思ってる」
「そうしようと思ってるって、宗さん、本気なの?」
結歌さんが念押しのように聞いてくる。
「本気だよ。婚約は省略することになりそうだけどね」
「須藤社長の返事を待って、すぐに入籍ですか」
「そのつもりだ」
さすが櫻井君だ、具体的に聞いてきた。
「一気に推し進めるつもりですね。それで、インタビューも事前に用意して、珠貴さんの誕生日に発表する」
「誕生日前なら、なおいいが」
漆原さんは、すぐにでも行動に移る気配を見せた。
「すぐにご結婚ということは、室長はご存知ないかと……秘密裏に進めるおつもりですか」
「浅見君の協力が欲しい。しばらく彼女には伏せておく」
浅見君は厳しい表情でしばらく考え込んでいたが、わかりましたと返事をくれた。
珠貴の個人秘書でありながら、珠貴に隠し事をさせることになり申し訳ないと思うが、浅見君の協力なくしてはこの計画は実現しない。
「両家のご両親様のお顔合わせなど、日程の調整も急がなくてはなりませんね」
「浜尾君にしかできない。頼む」
わかりました、とこちらは即答だった。
「結婚指輪、デザインは決まっているのに間に合いませんね。残念だわ」
「残りの日数では難しいだろう」
「婚約も婚約指輪もなし、結婚式も結婚指輪もなしで、入籍だけですか。
近衛家の長男としては、かなり大胆ですね。宗一郎さんがそこまで急ぐ理由は何ですか」
櫻井君の問いかけはもっともだ。
無理を言って彼らの力を借りるのだ、急ぐ理由を話しておかなければならない。
「須藤社長と珠貴の関係を修復するためだ。
ふたりの信頼関係が深刻になっている。
昨日、彼女は父親に抵抗するために家を出た。親子の話し合いは平行線のままだ。
俺がとりなすこともできない。この状況では婚約の許しを得るのは難しいだろう。
それなら、すべてにかたをつけて、一気に結婚まで持っていくまでだ。
どちらも頑固だからね、このままでは俺はいつまでも結婚できないよ」
難しい顔をといて顔を緩めると 「そうだ、そうだ」 と5人がはやし立てた。
みなの顔は応援しているぞと言っている。
もう後戻りはできない、私は目標に向かって全速力で走り始めた。