ボレロ - 第三楽章 -
「岩倉さんに会ったんだろう? どうだった」
「それが、なぁ……」
「えぇ……」
岩倉の大叔父へ挨拶を兼ね、招待状を直接届けるためにふたりで出向いた。
私たちの訪問をとても喜んでくださり、なにを置いても出席するよと言ってくださった。
須藤家の親族にも必ず出席するように働きかけていると、岩倉の大叔父は上機嫌だった。
そして、こんなことをおっしゃった。7
「孝一郎の話も聞いた。賛成だね、楽しみだよ」 と……
「須藤社長の話ってのはなんだ?」
「それが聞くに聞けなかった。俺たちが知らないと言いにくくて」
「そうか」
岩倉の大叔父を訪ねたあと、偶然にも昭和織機の丸田新社長にもお会いしたのだが、驚くことに、丸田社長からも 「須藤から聞きました。私もぜひ参加させてもらいます。楽しみですね」 と告げられたのだった。
さらに、近衛の大叔母も同様の反応だった。
こちらは 「鷹彦さんによろしくお伝えしてね。ステキなことだわ、早く行きたいわ」 と……
大叔母には父から話があったようだ。
「参加するとは披露宴ではないでしょうね。披露宴なら、出席するとおっしゃるでしょうから」
「えぇ、父たちは、みなさまにどんなお話をしたのかしら」
岩倉の大叔父と丸田社長、近衛の大叔母の謎めいた言葉に、私も珠貴も首をかしげたが確かめようがなく、
スッキリしない気持ちを抱えたまま、狩野の自宅を訪れたのだった。
「親父さんたち、なにか考えているんだろう」
「うーん……なんだろう」
「まさか」
佐保さんが、はっとした表情をみせた。
狩野に促された話をはじめたのだが、
「招待者の方々も含めて、クルーズを行うおつもりではないでしょうか」
「クルーズって、披露宴のあと船の旅にでるのか」
「それなら、参加するという言葉もわかるのでは?」
うん、その可能性は大いにあるなと、狩野は佐保さんの推理を支持している。
船の宣伝を兼ねて披露宴のあとクルーズにでる。
参加した人々の口から、客船の評判が広がる効果を狙っているのかもしれない。
口伝えの評判は、どんな記事にもかなわないらしい、宣伝効果はかなりのものだろう。
よもや親父たちがこんなことを考えていたのかと、私も佐保さんの考えが正しいのではないかと思い始めていた。
「でも、私たちにも話してくださってもいいのに……私たちは一緒に行けないからかしら。
きっとそうね、一緒にクルーズは無理ですものね」
「そりゃ無理だ、俺たちには仕事が待っている。
いまでも時間のやりくりに追われているんだ、クルーズどころじゃないからね」
「えっ、それでは、おふたりの新婚旅行はいつですか?」
「新婚旅行?」
ふたりの頭の中に存在しない単語を聞き、珠貴と顔を見合わせた。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
テイルコート ・・・ 燕尾服 夜の礼服 ホワイトタイと呼ばれる