ボレロ - 第三楽章 -
今回のメンバーは……
潤一郎 平岡 狩野 沢渡さん 櫻井君 と私を含めた6人だ。
友人たちと囲む円卓の会というのは、なかなかいいものだ。
各々の顔を見ながら意見を述べ、耳を傾ける。
仕事においてはそれぞれ立場があり、発言にも責任の重みが発生するが、
ここではみなが平等であり、発言も自由で制約はない。
立場や環境、性格や思考も異なる面々だが、どこかに通じるものがあるのだろう。
また、付き合いの長短や年齢差が、私たちの交流を妨げることはなかった。
私と平岡は、会社では上司と部下であり、中学高校大学と先輩後輩の関係から、
平岡が一歩下がった姿勢をとってはいるが発言に遠慮はなく、長い付き合いが
あるからこそ、思ったことを言える間柄だ。
秘書としても非常に優秀で、細やかな目配りで私を支えてくれている。
狩野は大学時代に知り合い、それ以来の付き合いだ。
よって彼は、平岡の先輩でもある。
現在は父親が経営するホテルの副支配人を務めており、仕事柄、自らを前面に
出すことは控えているようだが本来の彼は大胆で、懐の大きな面倒見のいい男
である。
沢渡さんとは異臭事件をきっかけに交友がはじまった。
飄々とした性格で、時として彼が医師であることを忘れてしまうほど身構えた
ところがない。
私や狩野より二歳上であるが、年齢の上下を意識したことはなく、心地良い関係
を保っている。
櫻井君との出会いは、ほかの友人たちと異なり最悪だったといえよう。
珠貴を挟んで対立していた我々だったが、珠貴の誘拐事件を機に関係が変化して
きた。
一時は彼の存在を疎ましいと思ったものだが、心持ち次第でこうも変われる
ものかと私自身も驚いている。
今はわだかまりはどこにもなく、いい関係を結んでいる。
「男ばかりが集まって話をするのは気兼ねがなくていいね。
女性がいると必ずと言っていいほど話が横道にそれる。
どうでもいい話題に、どうしてあんなに熱心になれるのか、不思議でならないよ」
「宗一郎さんの言うとおり、女性の話は長い。立ち話も電話も長いこと極まりない 。
用件だけ伝えられないものかと思いますね。
そういえば、女性だけの会がはやっているそうじゃありませんか。
ウチの看護師たちも以前は合コンが忙しそうだったのに、
最近は女性だけの集まりが多いそうですよ」
「女子会でしょう。沢渡先生の病院もそうなんですね。ウチの会社の女の子たちも
盛んらしいですよ。てことは、ここは男子会ですか。あっ、そんなのあるのかな」
「平岡、男子会ってのもあるんだぞ。
ウチのホテルでも最近予約が入るようになった。
男たちが集まって、女性に遠慮なく飲み食いするんだ。
普段は気兼ねして食べられない、ケーキやパフェが並んでる。
女性客と違うのは、男の場合は飲み食いに専念することだな。
女性はその点、食べながらしゃべる。器用だよ」
「そうですね。女性は同時にいくつもの作業をこなしますからね。
秘書業務は女性に向いていると思いますね」
「浜尾さんのように……ですか?」
「えっ、えぇ……まぁ、そうですね……」
平岡から顔を覗き込まれた櫻井君は、ハッキリしない返事とともに落ち着かない
顔をしていたが、「それで、彼女に会えましたか?」 と平岡が聞くと、
櫻井君は嬉しそうな顔になった。
なにやら二人だけに通じる話題があるらしく 、ソコソと頭を寄せて話をしている。
「海外で偶然の再会は、かなり効果的でした」
「良かった、会えたんですね。ふだんが真面目な人ですからね、
予想外の出来事には弱いはずだ」
「誰に会ったって?」
「いえ、なんでもありません。気にしないでください」
どうした、なんだ? と不思議そうな顔をした私と沢渡さんの横で、潤一郎は
なにか思い当たったのか、含み笑いをみせたが、すぐに表情を戻した。
狩野はまるっきり関係ないという顔だったが、コイツも何かを隠していると
感じたのは、長年付き合ってきた勘によるものだ。