ボレロ - 第三楽章 -


「二人の優秀な秘書か……彼らにも動機はあるんじゃないかな」


「動機? 沢渡先生は堂本君と浅見さんを疑ってるんですか?」


「堂本秘書は、宗一郎さんが珠貴さんと出会わなければ、知弘さんの懐刀として、

また経営者として存分に力を発揮できただずだ。 

一方浅見秘書は、珠貴さんの存在がなければ、もしかしたら副社長夫人に

なっていたかもしれない。それが、珠貴さんのために働く立場になった。

悔しさもあっただろう。二人とも、動機としては充分だと思うが」


「なるほど、こうも考えられるな。堂本秘書と浅見秘書が、目的を持って

手を結んだとしたら、それこそ向かうところ敵なしだ。

近衛と珠貴さんを会わせないなんて、そんな程度じゃない。両方の会社を

陥れることだってできそうじゃないか。考え過ぎかもしれないが、

なくもないんじゃないか?」


「まさか……二人に限って……」


「近衛、二人に限ってないと、そう言い切れるか? 俺も沢渡さんの意見は

見過ごせないと思う。潤一郎はどうだ」


「可能性はありますが断定はできませんね。思い込みや早急な判断は過ちを

招きます。慎重にいきましょう。有馬総研とともに彼らについても調べて……」


「待ってください。堂本君や浅見さんが怪しいと言うのなら、僕や浜尾さんだって

怪しいはずです。情報操作も可能な立場です。浅見さんは優秀な秘書です、

だから須藤側に行ってもらいました。 

堂本君も、知弘さんの絶対の信頼があったから近衛に派遣されたんです。

部下を信用できないなんて、そんなことは……」


「平岡、そうだな。俺も同じ意見だ。部下を信用できなくてどうする」



平岡の発言を聞き、沢渡さんと狩野が、言い過ぎたと頭を下げた。

悪気があっての言葉ではないことは、みなが承知している。

言葉が止み静まり返った座をどうしたものかと、みなが思案する中、

口を開いたのは櫻井君だった。



「では、僕にも充分に動機はありますね。

僕と近衛さんは、珠貴さんを挟んで対立した時期があります。

一時は近衛さんへ敵意もありました。この人さえいなければと思ったものです。

正直なところ、近衛さんを陥れようと思ったこともあります。

もちろん、いまはそんなことは思っていませんが……」



彼が言うように、珠貴を挟んで対立した頃は、それこそ憎い存在だった。

そこにいるだけで気分が悪くなったものだが、櫻井君が珠貴から離れた頃から、

私たちの関係も変わってきた。

それは彼を受け入れたからであり、もちろん信頼もしている。



「言われてみれば、そうだったなぁ。憎い相手だった、コイツと思ったものだ。

だが、今はそんなことはない。それに自分から動機があるなんて言うこと事態、

潔白を示しているよ」


「近衛さん……そう言ってもらえると嬉しいですね。

ですから、秘書の二人も同じじゃないかと思うんです。

過去に何かあったとしても、今は信頼のおける彼らだということが、

大事ではないでしょうか」


 
ふぅ……と大きく息を吐き、潤一郎がみなを見回した。



「疑えば、それこそここにいる誰もが怪しいと言えるかもしれませんね。

犯人探しは振り出しに戻しましょう 。

信用できないと思った人物こそが怪しいのかもしれない。

アンテナを立てるのはいいが、疑いの目で見ては目が曇る。が、その反対もある。 

一つの目で判断するのは難しいものです。何度も話し合いを持ち、

多方面から検討する必要があるでしょう」


「では、役割を決めますか。平岡君と宗一郎君は近衛側の周辺を、

櫻井君と僕は須藤側を探る。狩野さんは双方の連絡役で、潤一郎君には

全体を取りまとめてもらう。霧島君は情報収集をお願いしましょう。

知弘さんは今回は動けないはずですから、こちらから随時報告をするということで」


「会の規約といい、役割分担といい、沢渡先生、いい仕事だなぁ」


「平岡、おまえ偉そうだぞ」


「ははっ、そんなことはありませんよ。医者はいい仕事だと褒められることは、

滅多にありませんから嬉しいですね」


「俺も沢渡さんの提案でいいと思う。みんなは?」
  


狩野の言葉にみながうなずき 「了解 ではまとめに入ります」 と会のまとめに

入った。



「近衛が巻き込まれた騒動は、近衛と須藤に関わる誰かの指図だと考えられる。

主に狙われたのは、近衛宗一郎……公私共に、近衛の株を落とそうと

画策されたと思われる。

誰が企てたのかについては、現時点では有馬総研と香取相談役に関わる人物。  

あらたな情報や記事はそれぞれが調べておく。時期開催までの課題としよう。

こんなところでいいか?」


「狩野先輩、会の名前はどうしますか」


「それも、次回までの課題でいいんじゃないか?」



賛成の声が上がり、無事に第一回会合は終了となった。


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