ボレロ - 第三楽章 -


近衛グループに吸収だ合併だと週刊誌に騒がれ、社長の健康不安までささやかれ 

『SUDO』 の体面は危機に瀕している。

降りかかったマイナスイメージを払拭しなければならないこのときに、会社の中核

にいる専務が近衛側の女性と結婚など、親族や重役たちが黙っているはずが

ない。

今夜の親族会で、この大事な時期に何を考えているのかと、知弘さんが責められ

るのは目に見えていた。

それでも結婚の撤回は絶対にない、なにがあっても静夏と子どもを守るつもりだと

言い切った知弘さんを、両親は全面的に支持する側につこうというのだから、

親族内だけでなく社内を大きく揺さぶる事になるだろう。

紗妃のいうようにもっと簡単に考えればいいものを、それができない大人たちは

事態をますます複雑にしていく。

私と宗の結婚など、現時点においては実現は限りなく不可能だった。


それにしても、どこから情報が漏れたのか。

知弘さんと静夏ちゃんの事を知る人は限られている、伊豆の祖父母や、近衛社長

ご夫妻が情報を流すなどありえない。

宗と潤一郎さんも、もちろん問題外。

では、残るは相互派遣されている秘書のふたり。

知弘さんの秘書である浅見さんに、その疑いはまずないだろう。

彼女は誰よりも近くで知弘さんを見ている人だ、全力で秘密を守ることはあっても、

その逆はありえない。

そうなると、残るは堂本さんということになる。

マスコミを利用して私と宗を窮地に追い込み、いままた知弘さんの立場を危うく

させている。

何が彼にそんな事をさせているのか、そこがつかめないのだが、消去法で残った

人物となると、堂本里久その人しか浮かんでこない。

私たちが知りえない何かが、彼を動かす原動力になっているとしたら…… 

彼は、私の中で限りなく黒に近い人物だった。







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