ボレロ - 第三楽章 -
”宗……ここで終わりにしましょう”
私たちの関係を終わりにしようと、珠貴は言った。
自分から別れを切り出す言葉を、どんな思いで私に告げたのか。
異常な事態が彼女に言わせたのか、それとも、誰かが彼女を追い込んだために
引き出された言葉なのか。
昨夜から何度となく思い返す声に、また胸が苦しくなった。
「そうだ、櫻井氏から連絡をもらいました。
有馬総研が 『SUDO』 に経営方針の変更を勧めているそうです。
私は経営には疎いのでよくわかりませんが、大変なことなんでしょうね」
「そうですね。将来的な見通しや経営そのものを立て直すことになります。
もし、有馬総研の息のかかった税理士が送り込まれたりしたら、資金の流れは筒抜
けになりますね。融資関係も変わるかもしれない。思うように操る事も不可能では
ありません」
有馬総研と聞き、真っ先に岡部真一の顔が浮かんだ。
やはり、あの男がこの件に関わっているのだろうか、珠貴を脅かす存在なの
か……
壁際から盗み見た男の印象は、およそ大胆なことを行うようには見えなかったが、
メガネの奥の鋭い眼光だけは侮れないものを秘めていたと、私が知らない珠貴を
知っている男のことを苦々しく思い出した。
「それは恐ろしいな、知弘さんは反対しているようですよ。常務や相談役と意見が
食い違っているとか、いないとか……」
「だいたい、いまの 『SUDO』 に、経営方針の変更など必要ないはずだ。
まずは社長の意向が優先されるはずです。変だな……知弘さんに聞いてみます」
「新しいことがわかったら連絡してください」
そろそろ行きますと沢渡さんが席を立とうとしたとき、狩野が顔を見せた。
コーヒーをお持ちしましたと気の利いたサービスぶりだと思ったら 「テレビをみて
みろよ。面白いことになってるぞ」 という話題提供にきたらしい。
テレビをつけると、昨日のビルの騒ぎを伝えるリポーターの声が耳に飛び込んで
きた。
『……招待客は階段で屋外へ避難しましたが、屋上からヘリで救出された客が
いたもようです。
要請を受けた消防のヘリが救助したのではと思われていましたが、消防への取材
によりそのような要請はなかった事実が判明しました。
さらに驚く事に、救助に現れたヘリは、個人の要請により民間会社のヘリが出動
したもので、依頼した人物はわかっていません。
周辺のビルからの目撃証言で、ヘリに乗り込んだのは若い男女の二人連れで、
男性はタキシード、女性はドレス姿であったため、パーティーに出席した人物で
あるのは間違いないようですが、主催者側が固く口を閉ざしているため人物の
特定は難しく、これについては引き続き取材を行っていきます……』
新聞では小さな記事だったのに、ワイドショーにかかるとこんな報道になるのかと
呆れながらも感心した。
「おまえも気苦労が絶えないな」
「ふん、こんなこともあろうかと俺たちの名前は出さないように今川会長に頼んで
おいた」
「けどなぁ、どこから漏れるかわからないぞ」
「そうですね……」
沢渡さんが気の毒そうな顔で私を見た。