ボレロ - 第三楽章 -
メールの情報を提供してくれたのは、写真週刊誌の副編集長だと言う。
持ちつ持たれつというからには、漆原さんも何がしかの情報を向こう側に渡したの
だろう。
「となると……やはり秘書ですか。平岡君には申し訳ないが、彼らを疑わざるを
えませんね」
「または、堂本秘書、浅見秘書、彼らにつながる人物か……
寝物語にもらした話を、雑誌社に売り込んだつわものもいますから」
「秘書ってのは、寝言もおちおち言えないのか」
どう考えても行き着く先は秘書の二人になるようだ。
そうなると、昨夜、屋上の鍵をかけたのも彼らのどちらかなのか……
急に考え込んだため、どうしたと狩野に言われ、屋上の鍵は内側からかけられて
いたと話した。
「鍵が壊れていたってことはないのか」
「ドアノブを回した感覚から、施錠された手応えだった。今朝、ビルの管理者に確認
したが、鍵がかけられていたそうだ」
「宗一郎さんと珠貴さんを、故意に屋上に足止めしたってことか……
昨日のパーティーに秘書のどちらかがいたのか」
「二人ともいたよ……」
全員から小さなため息が漏れた。
「ますます彼らへの疑いは濃厚になってきたな。近衛、おまえのところの調査部を
つかって調べたらどうだ」
「調査部とはなんですか?」
「コイツの会社には独自の調査部門があるんです。近衛グループは、パイロット
から探偵までなんでもそろってます」
ヒュ~と口笛を吹いたのは漆原さんだった。
沢渡さんは、そんな部署まであるんですかと目を丸くしている。
「調査部に、社員の調査を頼むのはどうもなぁ……」
「外部の興信所を使って彼らを調べたらどうですか」
「いや、それはやめよう。もし彼らが無関係で、こちらが身辺を探らせたとわかった
ら、互いの信頼関係が崩れてしまう」
「そうですね。両者のうちひとりは黒でも、残るひとりは白ですから」
珠貴は堂本を疑っている口ぶりだった。
彼女がなぜ彼に疑いを持ったのか、聞かなければと思った。
実は気になる人物がいるんだがと切り出し、岡部真一の存在を初めて彼らに
明かした。
有馬総研の社員だと告げると、それは怪しいと誰もが口にしたが、珠貴との関係を
聞いた彼らは同じように首をかしげた。
「宗一郎さんが考えるように、岡部真一は一連の騒動に関わりがないように思い
ますが、怪しくないからこそ怪しいのかもしれない。それこそ、彼の身辺をさ
ぐってみたらどうだろう」
「それなら うってつけの人物がいるよ。潤一郎ならお手のものだろう。
ついでに秘書の周辺も探ってもらうってのはどうだ。
今週末帰国すると言ってたぞ。休暇に入るそうだから、そのあいだに動いてもらおう
じゃないか」
狩野の提案にみなが一斉にうなずいた。
本人のいない場所で、まさか休暇のスケジュールが組まれているとは、潤一郎は
思ってもいないだろう。
潤一郎の休暇は、極秘捜査に費やされることになりそうだ。
秘書への疑いを初めから持っていた潤一郎のことだ、すでに何かをつかんでいる
かもしれない。
情報捜査のプロである弟の報告が、今後の展開に大きく影響しそうな気配
だった。