ボレロ - 第三楽章 -
潤一郎から召集がかかり、ベルンのホテル以来の集まりとなった。
ひと月以上先でなければ予約できない 『シャンタン』 に 7人もの予約が取れ
たのは奇跡に近いことだそうだ。
「奇跡といえば、7人が誰一人の欠席もなく集まったことも奇跡じゃないか?
全員がよくも今夜ここに来られたものだと感心するよ」
「それを言うなら、狩野、誰よりも忙しい副支配人のおまえがここにいることこそ、
奇跡だと俺は思うね」
「その答えは簡単だよ。狩野が自分の休みにあわせて 『シャンタン』 の予約を
入れた。そうだろう?」
「潤一郎にかかると なにもかもが簡単なんだな。では、捜査結果を聞かせて
もらおうか。さぞや簡単に調べ上げたことだろうよ」
「この捜査を僕にさせようと誰が言い出したのか知らないが、僕の休暇はこの件を
調べることに費やされた。久しぶりの休日なのにと、妻の不機嫌はこの上ない。
結果に文句は言わないで欲しいね。捜査の延長も受け付けない」
「わかった。捜査の続きは我々が引き受けよう。そうだウチのレストランで紫子
さんとディナーでもどうだ? 特別席を用意するぞ」
「頼むよ。彼女に予定を聞いておく」
「潤一郎さん、週末に紫子さんとウチの別荘に遊びに来ませんか。周辺の山の
紅葉はちょっとしたものですよ」
「いいですね。ぜひお邪魔します」
「お待ちしています。では本題に入りますか。それで、なにがわかったんですか?」
珍しく小言を並べた潤一郎の機嫌をなおしたのは、潤一郎に捜査を任せようと言い
出した狩野と沢渡さんだった。
もっとも彼らがとりなして当然の事だといえるのだが……
いつも温和な潤一郎が不機嫌な顔をしてここに現れたのだから、捜査は簡単で
はなかったはずだ。
そして、夫婦水入らずの休暇を邪魔された紫子の機嫌も、相当に悪かったの
だろう。
休暇を使わせてしまったことについては、何かで埋め合わせをしなければと
思った。