ボレロ - 第三楽章 -
壁に反射した光が室内を淡く照らし出している。
和でも洋でもなく、アジアンテイストでもない。
どこの国のものなのか私には見当もつかないが、女性の興味をひくインテリア
であるのだろう。
珠貴と浅見君は、室内に飾られてた小物に目を輝かせていた。
案内された部屋へ緊張の面持ちで踏み込んだ私たちと異なり、堂本にも浅見君に
もかまえた様子はなかった。
勤務を離れた開放感が彼女のガードを緩ませたのだろうか、「室長もご一緒で
したか」 と驚きながらも嬉しそうな浅見君の顔は初めて見るものだった。
堂本もいつもの感情を抑えた顔ではなく、気さくな顔が私たちを迎えてくれた。
ともすれば、相手を射抜くような鋭い目を持つ二人が、そろって鋭さをしまって
いる。
彼らの目的は何であるのかを突き止めようと、私は神経を尖らせていた。
「こうして、4人が顔を合わせるのは初めてじゃないか?」
「そうよ。私たち、会わないように努力してたんですもの」
「堂本さんのご紹介のお店ですから、取材陣の心配はないと思いますが、
お二人のお帰りは別の方がいいかもしれませんね」
「それは手配済みです」
これは失礼いたしました、と浅見君が大げさに謝り、席に笑いが広がった。
知り合いの店ですので、どうぞ安心してくださいと堂本の説明だったが、はたして
安心していいのかと迷いがあった。
知り合いの店であるからこそ、堂本の都合の良いように出来るとも考えられる。
もしや会話が盗聴されているのではないか、店を出たとたん取材陣に取り囲ま
れる事態にでもなったら……
一度疑いの目を向けてしまった相手の言葉は、何を聞いても素直に受け取れな
いと言った珠貴の言葉は、いま、そのまま私に当てはまるのだった。
珠貴は浅見君への疑いを和らげ、堂本へ疑いを強めている。
私は浅見君の疑いを解くことはできず、堂本を疑い始めていた。
そこに、もう一つの可能性が浮かび上がってきた。
堂本と浅見君につながりがあり、一連の騒動は二人の秘書が仕組んだものだと
したら……
これは、最も考えたくない可能性だ。
彼らの言葉一つ一つが疑わしく思え、感覚のすべてが敏感になっていた。
にこやかに振舞っていた堂本が、急にかしこまった顔になりいずまいを正した。
「食事の前に話があります。よろしいでしょうか……申し訳ありません」
堂本の言葉は謝罪で始まった。
なにがあったのですかと、浅見君が頭を下げた彼を覗き込んだ。