ボレロ - 第三楽章 -
「追い詰める目的はなんだ。彼女の仕業だとわかっているのなら、なぜ明らか
にしない」
「それもお話ししますが……先に、副社長にお伝えしておきたいことがあり
ます」
堂本の話はいきなり核心に触れ、心の内を吐露するような内容にいささか面食
らっていたのだが、唐突な申し出に、今度は何を聞かされるのかと身構えた。
「先ほどの部屋の会話は、すべて須藤専務の耳に届いています」
「盗聴器でも仕掛けたのか」
「はい、別室で聞いていただきました。申し訳ありません……」
「そうか……もし……我々の話を聞いた知弘さんが君に疑いを持てば、俺に知らせ
ようとするはずだが、さきほどは、そんな様子は見られなかった。
彼女たちを送りながら、知弘さんには二人の会話も耳に入る。
浅見君が堂本へ疑いを持っているのか、そうでないのか探ることもできる」
「浅見さんに不穏な動きがあれば、すぐにでも私の元へ専務から知らせが入るで
しょう」
「なるほどね。俺が君に不信な点を感じたのであれば、知弘さんに知らせようと
しただろう。
私と知弘さんが顔を合わせても、互いに何も言わずに別れたということは、
知弘さんも俺も、君を信用したという意味になる」
「はい……」
「俺も知弘さんも、知らず知らずに君の思ったように動いていたわけか。
……知弘さんが、堂本を敵に回すと恐ろしいと言っていたが、まったくだ。君が敵
でなくて良かった」
「副社長……」
堂本の目が私を見据えたのち、無言で頭を下げた。
私は彼の信用を得たようだ。
さぁ、話してもらおうか、俺の質問に全部答えてもらうぞ、そう念をおすと
「はい」 と短く迷いのない返事があった。
「どうして浅見君に疑いを持った。ほかの人物だとは思わなかったのか?」
「副社長が、私や浅見さんに疑いを持ったのと同じ理由です。
私たちでなければ知りえない内容が記事になりました。
他の人物の可能性もあるのではと探りましたが、調べれば調べるほど浅見さんの
可能性が高く、彼女ひとりに絞りました」
「よく一人でわかったものだ。俺たちは何人もの頭をそろえて、考えて調べて、
ようやく君たちにたどり着いたと言うのに」
「記事を流したのは誰なのか消去法でいくと、私と浅見さんにたどり着くはずです。
私は自分ではないとわかっていますので、残るのは彼女しかいません」
「言われてみればそうだ。堂本でなければ浅見君しかいない」
打てば響くように返事が返ってくる。
先ほどの席とはうって変わり、穏やかな仮面を脱いだ堂本の顔は厳しく引き締まっ
ていた。