裏表×2
蓮side<

はぁはぁと息を切らしながら快の隣を走る。
快は足もめちゃくちゃ早い。
運動能力が男子並みって!ほんとに女かよ?

男の意地で快の少し前を走る。走りながら快に話かけた。

「何で急に駆けつけてんの?てか、ハルセちゃんって子何かヤバイの?」

全速力で走っているからか快の息も少しあらい。

「ハルセは男嫌いなの!お兄さん以外の男になつくとこ見たことないんだから!」

そういいながら更に走る速度をあげる。

「じゃ、もしかしてハルセちゃん襲われてるってこと?」
それはヤバイじゃん!
快が必死になって駆けつけるのも頷ける。

すると快が答えた。

「いや、それはないと思う。」
「へ?」

意味がわかんねぇし。

「は?じゃ、何で呼び出されてんの?てか、何でこんな全速力で駆けつけてんの?」

まず何で大丈夫って言い切れるのかもわかんねぇって!

「問題はハルセがキレた時なのよ!死人が出る!」
「はい?」

何それどういうこと?
快に聞き返そうとするとちょうど体育館の裏についてしまった。

快は角を曲がりながら叫ぶ。
「ハルセ!」

俺も快の後を追って角を曲がる。そしてそこに広がる光景に絶句した。






___________________








一人の女子の周りには五人の男子が倒れていた。
全員顔やら手やら、いろんなとこから血を流し倒れている。

そして、その中心に立つ女子は拳から血を流しながら周りに倒れている五人を見下ろすように平然とした様子で立っていた。

てか、俺の目にはその女子しか映っていない。
こんな悲惨な光景が広がっているというのに彼女から目がそらせない。彼女以外のものが目に入ってこない。

人が倒れているのは認識しているし、それを彼女がやったんだと言うことも容易に想像できる。

それでもそんなことはどうでもいいと思えるくらいその中心に立つ彼女は、美しかった。

彼女の漆黒の髪が風になびきキラキラと光る。少し鋭いが、綺麗な形をしたアーモンド型の黒目がちな目。白い肌には染み1つなく、顔に少し付いた血が逆に美しいと思えるほどだった。

異常な光景の中でさえ映える驚くべき中身の完成度の高さ。

呆然と立ち尽くしていると、隣にいた快が彼女の方に駆け寄った。

「ハルセ大丈夫?殺してない?」
「あれ?快?と夏木君?」

ハルセと呼ばれて彼女が反応した。
‥‥え?ハルセ?

「‥‥坂口遥紗、なのか?」

思わず大声を出す。
そんな俺を無視して坂口と快は更に喋っていた。

「殺してないよ、今は気絶してるけど。てか、1回も殺したことないし。」
「お兄さんが止めてくれたからでしょ!止めてなかったら殺してたことが何回あったことか。」

快は呆れたように言うとハーとため息をつく。

「いや、無視すんなよ!お前ほんとにあの坂口遥紗か?」

もう一度大声をあげて尋ねた。
彼女は平然と答える。

「そうだけど、だから何?」

もう声も出なかった。呆然とする以外にすることがない。

そんな俺を他所に普通に坂口と快は喋る。

「てか、何で夏木君がいるの?」
「ごめん、慌てたから付いてきてんの忘れてた。」
「快が気を付けろって言ったんじゃん!」
「ごめんって!」

二人の会話を聞いていると俺もだんだん冷静になってきた。あらためて坂口の顔をじっと見る。絶世の美女ってこういうのを言うんだろうか?ほんとに今日隣の席にいたやつだとは思えない。

いや、でも妙に親近感がある。

(‥‥‥この顔どっかで見たことある気がする)

すると、今の坂口と同じ顔を雑誌で見たことを思い出した。

「お前もしかしてモデルのHARUSE?」

依然として表情を変えないで答える。
「そうだよ。」

再び思考停止。皆さま俺が冷静になるまでしばしお待ちください。

1分くらいたってからようやくまた事実を飲み込む。

「で、そのモデルのHARUSEさんが何でまたこんなことしてるわけ?」

こんなことしてるなんてバレたら大変じゃん。てか、付いていかなきゃいいし。リスクがでかすぎる。

すると坂口は首をかしげながら言った。

「イライラさせられたからストレス発散?」

‥‥‥マジかこいつ。綺麗な顔して何言ってんの?考えてることヤンキーじゃん。

そして、この強さは何?

次々に疑問が浮かぶ。けど、何も言えない。
沈黙が流れる。

ふと、快が口を開いた。
「とりあえず、帰ろ!この人たちの口止めしたんでしょ、ハルセ?」
「うん。」

快は坂口の服を整えてやると、今度は俺の方に歩いてきて小さな声で言った。

「後で説明するから。」

帰ろう、と言ってまた坂口の方に走っていき手をつかむ。

そのままの姿で歩いていく坂口と快の後を何とも言えない気分で付いていった。

疑問に思うことは山ほどある。でも多すぎて、何も口からは出てこなかった。


空は少し暗くなっていた。だが、明日は雨なのか一面雲に覆われていて一番星を探すことは出来なかった。

そんな空を見ながら俺は歩く。家までの道がやけに遠く感じた。


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