裏表×2

妹バカの気づき

遥樹side<


今朝はいつもの格好で登校していた遥沙が家に帰ってきたら素の格好だった。

しかも家に入る直前、遥沙の親友の快ちゃん以外にもう一人男子が遥沙に声をかけていた。

(誰だあいつ……)

俺の記憶では遥沙が家に快ちゃん以外のやつをつれてきたことはない。そしてそいつは俺が中学時代には見たことがないやつのようだ。遥沙に近づく害虫は全部……排除したやつも含めて覚えているので、初めて見るそいつに思わず眉をひそめた。

玄関を抜けて家のなかに入ってきた遥沙は俺に気付かなかったようで俺のいる部屋のとなりをスタスタと通りすぎていく。

よく見ると制服のあちこちに点々と染みができている。ブレザーの色と混ざって黒く見えるため元がどんな色だったかはわからないが、よく見慣れたにじみ具合にそれがなんなのかは簡単に予想がつく。
それに遥沙の手の甲が少し赤くなってるのを俺は見逃さなかった。


(入学早々にケンカをしたのか。)

はぁ…と溜め息が零れる。

別に高校生になったからケンカをしなくなるとは思ってなかったが、初日からとは流石としか言いようがない。

遥沙はあの淑やかそうな外見とはうってかわって短気で凶暴だ。‥‥と言っても、別に自分からケンカを吹っ掛けるような子でもない。
余程あの子の琴線に触れるような輩がいたんだろう。

(にしても、誰だ‥‥?うちの可愛い妹にケンカを売ったやつは‥‥)

心のなかで毒づく。
中学の時のやつだろうか。

ふと遥沙が心配になってきた。入学初日にケンカして来たのだ。もしかしたら不安に思ってるかもしれない。

そう思って遥沙が自分の部屋に向かってから少しして彼女の部屋に俺も行ってみることにした。











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コンコン

遥沙の部屋の扉をノックする。
少しして「は~い」と少し気だるげな返事が返ってきた。

「入るぞ。」と言いながら扉を開けて部屋の中を見てみると遥沙はベットの上でくたーっ、と寝ていた。制服のまま。

(全く。皺になっちゃうのに。)

「お兄ちゃん。」
遥沙がベットに寝そべったままこちらの方を見ていた。
俺はそのベットの端に腰かけ遥沙の艶やかな黒髪を撫でた。遥沙は頭を撫でられるのは好きなようで少し目を伏せてされるがままにされている。

「今日ケンカしてきただろ?」

不意にそう言うと遥沙が少し驚いた顔で俺の方を見てきた。

「何で知ってんの?快?」
不安そうでちょっと怯えた声が可愛らしい。俺はクスリと笑って更に頭を撫でた。

「朝はいつもの格好だったのに帰ってきたときはこの格好だったから。何かあった?」

核心的なことを率直に問う。
遥沙の綺麗な黒目がちの瞳をのぞきこんでいると、遥沙がフッと視線を反らしそのまま逃げるように布団を被る。
そして「別に」とぶっきらぼうに答えた。

何かあるのは間違いないだろうけどこのまま問いただしても遥沙が答えることはないだろう。

暫く考え込んで結論を出すと再び遥沙に向き直る。
出来るだけ優しく笑って「そう」とだけいうと、遥沙も安心したように息を吐いた。そのどこか緊張していたような様子にまた笑いが零れてしまう。

「何かあったら相談して。今日はもうおやすみ。制服はちゃんと着替えるんだよ」
「ん。」
一応念を押して言うと遥沙から短い返事が返ってきた。

まだ布団からは出てこない。
余程疲れがたまっているらしい。

俺は遥沙の部屋から出るとそっとドアを閉める。

そのまま自分の部屋に歩いていくが、どうもイライラが消えない。

遥沙が入学式当日から喧嘩をするような状況にした奴がいると思うと無性に腹が立つのだ。

遥沙を困らせる奴、邪魔をしてくる奴が赦せない。

周りの奴は俺のことをシスコンだの妹バカだの言ってくるがそんなの関係ない。俺にとって遥沙はたった一人の可愛い妹だ。
大切にして何が悪い。

そんなことを考えながらズンズン廊下を歩く。

春になって比較的温かい日が最近は続いていたが今歩いている廊下を包む空気はとても冷たく底冷えするようだと感じた。


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