裏表×2
後ろを振り向くと私のイライラの根源である夏木蓮がいた。
その顔には超が付くほどの満面の笑み。
何その笑顔ムカつく。
私の機嫌が更に悪化しそうになりかけた瞬間妙な違和感を覚える。
(あれ?何か昨日と違くない?)
その違和感に思わず首を傾げると夏木くんがピクッと片眉を上げた。
え、何?
「坂口さん、何か言いたいことがあるなら言ってはどうですか?」
笑顔のまま言葉を続ける夏木くん。
別にそう言う意味で首を傾げた訳じゃないんだけど、そんなことより‥‥
「何で昨日と態度違うわけ?」
私の言葉にピシッと夏木くんが固まる。何も答えない。
え、無視ですか?
というか違和感の正体って絶対これだよね!
それより、ほんと何?その喋り方とかムカつく笑顔。
見てて超腹立つんだけど。
「気持ち悪。」
気が付いたら本音が口から漏れてた。
(あ、つい口に出ちゃった。)
ブチッ
直後に聞こえた何かが切れるような音。
えっと、どこから聞こえてきたのかな?
それと同時に夏木くんの雰囲気がガラリと変わる。
そして‥‥
「てめぇ、ケンカ売ってんの?」
夏木くんはさっきまでの態度が嘘だったかのように眉を潜めて低い声で言う。そして言いながら私の体をドンッと近くの壁に押し付けた。
周りの生徒(主に女子)から悲鳴のような声が聞こえる。
(あれ?昨日と同じ夏木くんだ)
え、さっきのって見間違い?
てか、何でこんなに切れてるの?気持ち悪いって言ったからかな。聞こえてたんだ?
押さえつけられた状態のまま思考がどんどん廻っていく。二人とも沈黙したまま何も喋らない。そのせいでぶっちゃけ周りが見えないくらい考え込んでた。
すると突然体を押さえつけていた力が消えると同時にゴスッという音が耳に届いた。
突然の出来事に驚いて思考は一時中断。音のした方を見る。
目を向けた先には吹っ飛ばされて尻餅をつく夏木くん。ぷらす、般若のごとき表情の快さん。
どうやら快が夏木くんを殴ってどかした模様。夏木くんどんまい。
てか、あれ?快さんめちゃくちゃ怒ってらっしゃいますよ?何で?
何故か唐突にキレた快に一人戸惑っていると、快が表情を変えないまま言った。
「ハルセに何してくれてんの、蓮?」
声はいつもの快のそれとは違いとてつもなく冷たい。
すると夏木くんはさっきまでの表情を仕舞い例の気持ち悪い笑顔を張り付けた顔を快に向ける。
「嫌だなぁ親睦を深めようとしていただけですよ、快。」
笑顔は確かにさっきと一緒だけどオーラは超まがまがしい。
てか、あれ?しゃべり方とか戻ってない?
え?どういうこと?
再び私の頭の上には?がいっぱい飛び交ってる。
そんな私を無視して話を進める二人。
「壁に押し付けて仲を深めるやつなんていないと思うんだけど!」
「ははは。それは偏見ですよ、快。何でも決めつけて断言してしまうのはあなたの悪い癖です。」
「それはあんたでしょ!何?ケンカ売ってる訳?」
「それはこっちの台詞ですね」
バチバチと火花を散らしながら毒を吐き合う夏木くんと快。
(もうそろそろ止めないとだよね。HR始まる時間になっちゃうし。)
そう思ったけど何か今は二人の間に入りにくい。
私が入ってったら余計に話が面倒くさくなりそうだし?
そう思っていると後ろの方から救いの声が‥…
「なーに、快ちゃんと蓮ちゃん高校生になってもケンカしてんのぉ?」
ちょっと間延びした甘い声。
その声の方を向くとそこにはまた見たことないくらいのイケメンがいた。