黄金(きん)の林檎
* 3 章 *
サークルは私が辞めようと決心したとたん何か問題が起きたらしく、活動停止の連絡が回ってきた。
あんなに頻繁にあった飲み会もぱたりとなくなり、しばらくしてサークルが解散となった。
噂では亜季先輩が友人とトラブり、サークルのメンバーに迷惑をかけたらしく、それが原因でごたごたするようになり解散にまでなってしまったらしい。
辞めようと思っていたこちらとしては拍子抜けだった。
それからは新しいサークルに入らず、迷惑かけていたバイトに集中することにした。
有名進学高校に合格した稜もバイトを初め、すれ違うことが多くなって少しだけ2人の間に空間が出来たような気がして寂しい。
いつまでも仲良しというわけにもいかないことはわかっている。
それでも一緒にいる時間が少なくなっていくのは寂しい。
稜は高校生になったことと、バイトを始めたことで前よりもずっと交友関係が広くなったらしく、携帯にメールや電話がひきりなしにくる。
小さい時の記憶がトラウマになっているのか、自分から積極的に人と関われない私の交友関係は逆に狭い。
狭くても信頼できる友人がいたので良かったのだが、携帯で楽しそうに友達と話す稜を見ていると自分だけが置いていかれたような気がした。
そんなある日だった。
休日の昼。
稜がバイトへ行って家には誰もいない時のことだ。
訪問を知らせるチャイムは意外な来訪者をもたらした。
ドアの向こうに立っていたのはサークルの先輩。
特に稜を気に入っていた亜季先輩だった。
同じサークルに所属していたと言っても亜季先輩とはそれほど親しくはなく、そんな亜季先輩がなぜ自分に会いに来たのだろうか?
そう思って困惑していると、亜季先輩は少し顔をしかめた。
「美紀来てる?」
「みき……さん?」
母は喜和子という名前で、家には他に女はいない。
みきとは誰のことなのかと聞いてみた。
「知らないの? じゃあ、やっぱ嘘だったんじゃん!」
私の様子に急に亜季先輩が憤慨しだした。
いったい亜季先輩は何が言いたいのだろう。
「嘘とはなんですか?」
「……ああ。アタシの友達にさ、棚橋 美紀って言うのがいるんだけど、そいつが稜くんと付き合ってるとか言うからさ。確かめに来たの」
「稜くん……と?」
「そ! 街で偶然会って付き合うことになったとか言ってさ。榛名さんも美紀のこと知らないんじゃ、やっぱ嘘なんじゃん」
怒りながら腕組する亜季先輩を呆然と見ることしか出来ない。
稜くんが亜季先輩の友達と付き合っている?
衝撃的な言葉に脳が理解することを拒絶した。
「……もう用はないから帰る」
それだけ言って亜季先輩は帰っていった。
稜が誰かと付き合っていても、たぶん私にはわからないだろう。
紹介してくれたりすれば別だが、最近の稜が何をしているのか私にはわからない。
胸がズキリと痛む。
稜に恋人がいてもおかしくない。
喜和子さんに似ている清潔感のある整った容姿。
背が高くて頭も良くて、社交的。
そんな稜がモテることはわかっていた。
私は姉だ。
血の繋がった家族で最初から恋愛対象にはなれない。
私がどんなに稜を好きでも、けして恋人同士にはなれないのだ。
わかっていた事実なのに、実際に突きつけられると辛い。
稜への想いは家族の愛情から恋への変化だった。
だからけして激しいものではないが深い愛情があった。
私をとても大切にしてくれる稜だからこそ、恋人が出来たことが言えなかったのかもしれない。
ちゃんと祝ってあげなければ。
稜は私の大切な人なのだ。
その大切な人の幸せだからこそ祝わってあげなければならない。
それでも目じりが熱くなっていく。
諦められない。
忘れることが出来ない。
捨てられない想いだからこそ一方的でも想い続けることしかできない。
一生の片思い。
あんなに頻繁にあった飲み会もぱたりとなくなり、しばらくしてサークルが解散となった。
噂では亜季先輩が友人とトラブり、サークルのメンバーに迷惑をかけたらしく、それが原因でごたごたするようになり解散にまでなってしまったらしい。
辞めようと思っていたこちらとしては拍子抜けだった。
それからは新しいサークルに入らず、迷惑かけていたバイトに集中することにした。
有名進学高校に合格した稜もバイトを初め、すれ違うことが多くなって少しだけ2人の間に空間が出来たような気がして寂しい。
いつまでも仲良しというわけにもいかないことはわかっている。
それでも一緒にいる時間が少なくなっていくのは寂しい。
稜は高校生になったことと、バイトを始めたことで前よりもずっと交友関係が広くなったらしく、携帯にメールや電話がひきりなしにくる。
小さい時の記憶がトラウマになっているのか、自分から積極的に人と関われない私の交友関係は逆に狭い。
狭くても信頼できる友人がいたので良かったのだが、携帯で楽しそうに友達と話す稜を見ていると自分だけが置いていかれたような気がした。
そんなある日だった。
休日の昼。
稜がバイトへ行って家には誰もいない時のことだ。
訪問を知らせるチャイムは意外な来訪者をもたらした。
ドアの向こうに立っていたのはサークルの先輩。
特に稜を気に入っていた亜季先輩だった。
同じサークルに所属していたと言っても亜季先輩とはそれほど親しくはなく、そんな亜季先輩がなぜ自分に会いに来たのだろうか?
そう思って困惑していると、亜季先輩は少し顔をしかめた。
「美紀来てる?」
「みき……さん?」
母は喜和子という名前で、家には他に女はいない。
みきとは誰のことなのかと聞いてみた。
「知らないの? じゃあ、やっぱ嘘だったんじゃん!」
私の様子に急に亜季先輩が憤慨しだした。
いったい亜季先輩は何が言いたいのだろう。
「嘘とはなんですか?」
「……ああ。アタシの友達にさ、棚橋 美紀って言うのがいるんだけど、そいつが稜くんと付き合ってるとか言うからさ。確かめに来たの」
「稜くん……と?」
「そ! 街で偶然会って付き合うことになったとか言ってさ。榛名さんも美紀のこと知らないんじゃ、やっぱ嘘なんじゃん」
怒りながら腕組する亜季先輩を呆然と見ることしか出来ない。
稜くんが亜季先輩の友達と付き合っている?
衝撃的な言葉に脳が理解することを拒絶した。
「……もう用はないから帰る」
それだけ言って亜季先輩は帰っていった。
稜が誰かと付き合っていても、たぶん私にはわからないだろう。
紹介してくれたりすれば別だが、最近の稜が何をしているのか私にはわからない。
胸がズキリと痛む。
稜に恋人がいてもおかしくない。
喜和子さんに似ている清潔感のある整った容姿。
背が高くて頭も良くて、社交的。
そんな稜がモテることはわかっていた。
私は姉だ。
血の繋がった家族で最初から恋愛対象にはなれない。
私がどんなに稜を好きでも、けして恋人同士にはなれないのだ。
わかっていた事実なのに、実際に突きつけられると辛い。
稜への想いは家族の愛情から恋への変化だった。
だからけして激しいものではないが深い愛情があった。
私をとても大切にしてくれる稜だからこそ、恋人が出来たことが言えなかったのかもしれない。
ちゃんと祝ってあげなければ。
稜は私の大切な人なのだ。
その大切な人の幸せだからこそ祝わってあげなければならない。
それでも目じりが熱くなっていく。
諦められない。
忘れることが出来ない。
捨てられない想いだからこそ一方的でも想い続けることしかできない。
一生の片思い。