黄金(きん)の林檎
 父の前から姿をくらました母親は、教育費をもらったにも関わらず、ずっと父親に金の無心を続けていた。

 娘に会いたい一心の父親は私に会わせることを条件に最初は言われた通りお金を振り込んでいたが一向に会わせて貰えず、何度も繰り返される金の無心に私のことが心配するようになったらしい。
 まとまった金と引き換えに引き取りを申し出たが、私が大事な金づるだとわかっていた母親はそれを断り私に会わせようとはしなかった。

 私に会わせてもらえなかった父は居場所を探し出そうとすぐに探偵を雇っていた。
 その探偵のおかげで私の入院先がわかったらしい。

 父は再婚相手に頼み込み私に会いに来てくれた。
 10年以上会わせてもらえなかった娘は、病院の白いベットの上で顔をしかめたくなるほどやせ細った体を横たえていた。
 意識が戻っても反応が鈍く、無表情で濁った瞳をしていた私を見た再婚相手の喜和子はひどく同情してくれ引き取りを認めてくれたらしい。

 何ヶ月もの入院の間、喜和子は家から離れているというのに1日も欠かさず私のお見舞いに来た。
 父親がどれほど私に会いたがっていたか。
 また自分達の間に私の弟がいることなど、色んなことを話してくれた。

 無表情でめったに話さない私にも優しくし、甲斐甲斐しく世話を続けた。
 痩せているものの女の子らしい膨らみが少し出てきた頃、私は退院し父親と喜和子の家へと連れてこられた。

 小さな庭のある一軒家。
 庭には喜和子が世話しているという色々な花が綺麗に咲いている。
 家の中はきちんと清潔に保たれ、優しく暖かな雰囲気に満たされていた。

 そしてそこで私は異母姉弟である小学生の稜と出会う。

 父の真面目さと喜和子の優しさとを合わせたような男の子だった……。

 喜和子から色々話しを聞いていたのだろう。
 多少肉がついたといってもまだまだ痩せている私を見て、稜は最初は驚いた様子だったが暖かく迎えてくれた。

 今まで知らなかった優しい家族の愛情。
 毎日満たされるほど食べられる暖かくて美味しい食事。

 優しいが厳しくて真面目な父、柔軟で暖かい喜和子、そしていつもそばにいて過保護に守ってくれた弟の稜。
 そんな家族に囲まれ、最初は戸惑い気味だった私も段々と普通の女の子らしい感情を持つようになっていった。

 ずっとそばにいて優しくしてくれる稜に対し、いつしか私は異性としての好意を抱くようになっていた。
 そんな自分の変化にすら気づかず……。
 
< 3 / 18 >

この作品をシェア

pagetop