黄金(きん)の林檎
 高校2年の夏。
 終業式が終わり家に帰る時だった。

 駅に着くと空には重くどんよりした暗い雲で覆われ、ぽつぽつと雨が降り出しはじめていた。
 その時はたまたま傘を持っておらず、駅から徒歩圏内に家があったので急いで帰ろうと駅を出た。
 しかしほんのしばらく後には、まるでバケツをひっくり返したような土砂降りになり、一歩歩くごとに制服は雨を吸収しずにぶ濡れになっていく。
 家に帰る頃にはどこかで泳いできたばかりのような状態で、玄関に入ると滴る雫が水溜りを作るような有様だった。

 このまま家に入れば廊下を濡らしてしまう。
 そのことに躊躇っていると、先に帰っていた中学生の稜がいつまでも家に上がってこない私を心配してか廊下に顔を覗かせた。

「ねーさんお帰り……って、なにしてるの!」
「稜くん、ただいま。悪いけど雑巾持ってきてくれる?」

 私の言葉に顔を引っ込ませ、すぐにバスタオルを持って来てくれた。

「このままじゃ床がぬれちゃうから雑巾を……っぷ!」

 言い終わらないうちに投げつけられるようにバスタオルが頭にかぶせられる。
 文句を言おうとしたとたん稜は私の腕を強引に引っ張り、そのまま背中を押してお風呂場へ強引に押し込んだ。

「床は俺がちゃんと拭くから、ねーさんはすぐに風呂に入って!」

 少し怒ったような声が聞こえ、私は慌ててお風呂に入った。

 暖かなシャワーにほっとする。
 いくら夏でも家はクーラーが効いていて濡れていた私には少し寒かったのだ。

 十分温まると稜が顔を出し私の着替えを持ってきてくれたのだが、稜の選んだ下着は喜和子さんが選んだフリルとリボンの付いている女の子らしい上下セットのものだった。
 私が選ぶとたいてい地味でシンプルなものしか選ばない。
 女の子らしい下着はみんな喜和子さんの買ってくれたものだ。

 一瞬自分が選ぶ方を持ってきてもらおうと思ったが、せっかく稜が持って来てくれたのだし、さすがに2度手間を頼むのも気が引けてしまう。
 しぶしぶ持って来てくれたものを身に着けて私が居間に入ると、なぜかクーラーが止まっていた。
 稜が冷えないように止めてくれたのだ。

 私にはちょうど良くても稜には暑いはずだ。

 この頃の稜は反抗期だったらしく私との間にも距離をとっていた。
 話しかけても無愛想で、あまり話してくれなくってすごく寂しかった。
 
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