流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜
┣壊れていく命
「ただ、少し気になることが……」
クドリャフカは、僅かな異変を示し始めていた。
打ち上げの際、クドリャフカの脈拍と血圧は通常の三倍にまで達していた。
けれど、それは今までの飛行実験の際にも見られたことであり、想定の内である。
そして、無重力になり通常時の脈拍と血圧に戻っていくことも。
もちろんクドリャフカも無重力と共に、脈拍と血圧は落ち着いていった。
ただ、通常の脈拍と血圧に戻るのに、今までの実験でかかった時間の三倍もかかっていた。
三倍もの時間、クドリャフカは落ち着かずにいたのだ。
「おそらく、ストレスのせいではないかと……」
ストレス。
クドリャフカにとって、宇宙は苦痛なんだ。
誰もいないスプートニクの中で、クドリャフカの泣き声を機械だけが聞いている。
クドリャフカ、僕は君を……
それでも、クドリャフカは生きていた。
生き物のいないひとりぼっちの宇宙で、ただ一つの命として。
すぐそこには、宇宙で唯一生き物が住まう地球があるというのに、クドリャフカはもう二度と地球には帰ってこれない。
宇宙規模で見ればスプートニク2号と地球は近いだろう。
けれど、クドリャフカと僕の距離はあまりにも遠い。
地球の周囲をまわる衛星、クドリャフカ。
今、地球には衛星が三つある。
月、スプートニク1号、スプートニク2号。
くるくると、クドリャフカが回っている。
いよいよ、クドリャフカは僕らのことを怨んでいるかもしれない。