流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜

「なっ、なんで……!」


 管制室に、困惑した声が響いたのは、クドリャフカが地球を三周した時だった。

 クドリャフカの生体データは地上にいるときと同じ数値を示し、カプセル内もちゃんと正常に保たれているはずだった。

 なのに……


「カプセル内の気温上昇、40度に達しています!」


 カプセル内の気温が異様な上昇を見せ、センサーの位置からクドリャフカが激しくもがいていることが推測された。

 暑さで、パニックになっているんだ。

 更に、ノーズコーンが分離する際、断熱カバーの一部が剥離した可能性を示すデータも取得される。

 どうして、こんなことになってしまったんだ……?

 クドリャフカは、無事なはずじゃなかったのか?


「なんでこんなに気温が上がったんだ?」

「わかりません」

「やはり、断熱カバーが剥がれたのが痛手だったのか」

「コアステージが太陽熱を吸収してしまったのでは?」

「クドリャフカの体温が……」


 さまざまな憶測が飛び交う。

 けれど、原因がわかったところで、地上からどうやってクドリャフカを助ければいいんだ。

 助ける術などありはしない。

 僕らに出来ることなんて、奇跡でも起こってくれるのを祈るぐらいだ。

 スプートニク2号は次第にテオメトリー受信地域から離れ、通信は途絶えた。

 次にまた一周して戻ってくるまで一時間半。

 次にテオメトリーを収得した時、データはどんな現実を突き付けるのだろう。

 長い一時間半はあまりにも長いだろう。

 何を思って過ごせばいいのだろう。
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