流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜
 ユリヤさんが泣いている。

 トラスキンさんも俯いて顔を上げない。

 チェルノコフさんも涙ぐみ、局長も目を真っ赤にしながら指示を飛ばしていた。

 僕は止まらない涙をぬぐいながら踵を返す。

 管制室を飛び出した。

 わけのわからない衝動につき動かされ、僕は涙を置き去りにしそうなスピードで通路を駆け抜ける。

 叫びだしたい。

 クドリャフカクドリャフカクドリャフカ、クドリャフカ……!


「クドリャフカ――!」


 外に飛び出し、僕は叫んだ。


「クドリャフカ――!」


 声が嗄れるまで叫び続ける。


「クドリャフカ――!」


 呼び続ける。


「クドリャフカ――!」


 クドリャフカの名前を叫んでどうしたいのかなんてわからない。

 僕はただ夕暮れの草原を踏み締めて、迫り来る夜に叫んだ。

 太陽が沈んだ空は、宇宙をありありと見せた。


「クドリャフカ――!」


 闇が迫り、宇宙の星々を見せ始めた空に、奇妙な星が一つ。


「クドリャフカ――!」


 四等星ほどの輝きを持ったそれは、ゆっくりと夜空を横切っていく。


「クドリャフカ――!」


 僕はその光に向かって叫び、手を伸ばす。


「クドリャフカ……!」


 それは、太陽光を反射して輝くスプートニク2号だった。
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