流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜
 僕はアパートに戻ってきていた。

 宇宙開発局に配属されたばかりの頃のように、部屋はダンボール箱だらけになっている。

 僕はあの日クドリャフカの足をふいたタオルを旅行鞄に詰め込んで、このアパートを引き払う準備を進める。

 無理矢理、宇宙開発局に辞表を押し付け提出してきた。

 クドリャフカの死については一切喋らないように箝口令を敷かれたが、なんとか辞めることを許された。

 無責任にも、僕は逃げる。

 ユリヤさんはこれからもロケットの設計を続けていくのだろう。

 トラスキンさんも、ずっと犬の面倒を見ていくのだろう。

 チェルノコフさんも、局長も、夢の有人飛行を目指し邁進するだろう。

 クドリャフカの死は、決して無駄にはならない。

 有益なデータとして、人類の夢を叶えるだろう。

 夢…………

 クドリャフカ。

 ただの夢であったなら、彼女は死なずにすんだ?
< 116 / 132 >

この作品をシェア

pagetop