流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜
 クドリャフカがすでに死んているという事実をひたかくしにするのは、国の威信のためだ。

 大国に負けないため。

 大国は、スプートニク1号の時よりも大きな衝撃を受けていることだろう。

 大国は未だに2キロの衛星すら打ち上げられずにいるというのに、クドリャフカの乗ったスプートニク2号は504キロもあったのだから。

 宇宙開発局から離れた僕は、もう新聞などのメディアしか頼りにならない。

 なのに、クドリャフカは雑種の小犬にも関わらずライカ犬と書かれたりしていた。

 犬種名であるライカ犬。

 この国の固有の犬種だ。

 こんなところまで、この国一色に染めなければならないのか。

 クドリャフカは、ライカ犬と似ても似つかないけれど、クドリャフカを拾ってきたばかりの時を思い出す。

 トラスキンさんがよく吠えるからライカという名前が似合うんじゃないかと言っていた。

 もう、なにもかもが懐かしい思い出になってしまった。


「荷物は後から送ってもらうとして……もう、行くか」


 旅行鞄だけを手に、ダンボールで埋め尽くされた部屋を後にする。

 地元に戻って、新しい仕事を見つけよう。

 早くこの街から離れたい。

 辞める時に、挨拶は済ませし、誰にも会わずそのまま駅へ向かう。

 さようなら。

 クドリャフカと出会い、クドリャフカと過ごした街。
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