流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜

「クドリャフカ……」


 僕は彼女を思い、涙を流す。

 ポタリポタリと落ちていく涙が、焦げて真っ黒になった金属片を冷やしていく。

 美しい満天の星空のもと、僕はいつまでもクドリャフカを思い泣いていた。


「ごめん。ごめんね、クドリャフカ……」


 スプートニク2号の破片はいつの間にか冷え、涙に濡れていた。


「クドリャフカ」


 僕はそれをつかむ。

 まだ熱く、手が焼けていくのを感じた。

 けれど、強く強く握りしめる。

 スプートニク2号を、クドリャフカの骨を、柩を、握りしめた。


「クドリャフカ」


 償う術など、わかりきっていた。

 例え気休めの償いだとしても……

 これ以上、無意味な屍の山を築かないでくれ。

 それを踏み付けてでも、生きていかなければならないのだから。

 その死を無駄にしないことしか出来ないのだから。


「ごめんね、クドリャフカ……」


 熱い欠片を握りしめた手を、額に押し当てる。

 彼女を思うと涙が止まらない。

 これから死ぬまで、ずっと背負っていかなければならない痛み。


「ごめんね……」


 仰いだ空は、宝石箱をひっくり返したように美しい。

 天を仰ぎながら、僕は流れる涙をぬぐうことさえしない。

 流されるがままの涙が、頬を伝い雫になって落ちていく。



 きゃん



 遠くで、クドリャフカの声を聞いた気がした。



「ありがとう、クドリャフカ…………」



 決して、僕は君を忘れない。





END
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