流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜
第2話「普段の生活は犬とともに」
┣不思議な仕事
「お疲れ様です」
宇宙開発局施設前、銃を持った警備兵に身分証明書を提出しながら挨拶をする。
やましいことは何もないのだが、施設の出入りにはいつも緊張を強いられる。
「おはようございます、ミラン・ハイエルさん」
身分証明書を見て僕の顔と名前を確認した若い兵士は帽子を軽く持ち上げて、にこやかに挨拶を返してくれた。
どうやら、今日はアタリのようだ。
これが無愛想な厳つい軍人相手だったら、施設内に入るまで生きた心地がしない。
「はい、問題ありませんね。どうぞ、お入りください」
ようやく僕は敷地内に入ることが許され、仕事場に向かう。
宇宙開発局は軍事施設の一つだが、宇宙開発のことは国家機密だ。
だから、きっと警備兵の彼らも僕が中でどういうことに関わっているのかは知らないだろう。
国家機密に関わっていると言えばなにか凄い仕事をしていそうだが、僕は下っ端職員なので直接宇宙開発に関わることはない。
僕は汚れてもいいよう仕事着に着替えると、倉庫に向かった。
「あ、トラスキンさん。おはようございます」
「おはよう」
倉庫には、先輩のエアルド・トラスキンが既に来ていた。
「ドッグフードがもうすぐなくなりそうだから、後で発注しておいてね」
「はい、わかりました」
頷いて、先輩の作業を手伝う。
でかい袋に詰まったドッグフードを、持ち運べるようバケツに移していく。
ドッグフード。
なぜ、宇宙開発にドッグフード? と最初は不思議だった。
下っ端職員に与えられる仕事はもっぱら雑務で、その中で僕は主に犬の世話を命ぜられていた。
将来的に有人飛行を視野に入れた宇宙開発は、まずは犬を飛ばして様子を見ることになっているらしい。
そのための訓練を受けている優秀な犬たちがこの宇宙開発局にはいる。
その世話を、僕らがしているのだ。
「じゃ、行こうか」
「はいっ」
ドッグフードをバケツに移し終わると、それを持って飼育室に向かう。
「アルビナ、リサ、マリューシュカ、ムーカ、ボビク、デジク、ツガン、スメラヤ、ベルカ、ストレルカ、チェルヌーシカ、ズビョーズドチカ、ごはんだぞー」
飼育室にいる犬たち全員の名前を呼びながら部屋に入っていくと、いっせいに犬たちの歓声が上がった。