流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜

「君は、誰だい? 新入りの子じゃないよね」


 ドッグフードの入ったバケツを下ろし、その犬の前にしゃがみ込む。

 じっと僕の目を見つめて、その子は首を傾げた。

 碧い目の、可愛い顔立ちだ。

 この体格では、実験に参加できないだろう。

 それに、オスであることが見て取れた。


「イヴァン、お待たせ」

「あだーっ」


 トラスキンさんの声とともに扉が開き、僕の後頭部を強打した。


「おまえまだ餌やりしてなかったのかよ、早くしろ」


 扉を僕にぶつけたことを謝りもせず、逆に叱る。


「トラスキンさぁん……」


 僕が後頭部を押さえながら不平に声を上げても、気にする様子もない。

 その時、


 ヴァンヴァン!


 さっきまで大人しくおすわりをしていた犬が、急に立ち上がり千切れんばかりにしっぽを振って、首輪が食い込むほどギリギリまでトラスキンさんに駆け寄った。

 それを見て、僕はこの犬がなんなのかを理解した。

 トラスキンさんが呼んでいた、イヴァンという聞き慣れない名前。

 嬉しそうな犬の様子。

 そして、碧い眼。


「いいんですか? トラスキンさん。職場にペットなんか連れてきて……」


 この犬は、以前にトラスキンさんが話していた青い目をしてハ長調で吠える犬だ。

 さすがにハ長調ではなさそうだが、変わった鳴き声にオスだし間違いない。
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