流れ星になったクドリャフカ〜宇宙で死んだ小犬の実話〜
 トラスキンさんとクドリャフカを連れて帰り、体を丁寧に拭いて毛並みを整える。


 きゃんきゃん


 クドリャフカは綺麗にしてもらってご機嫌なのか、よく吠えた。


「クドリャフカ、綺麗だよ」


 トラスキンさんが恋人を口説くようなことを口にするから、僕は少し笑った。


「クドリャフカ」


 僕は何回も彼女の体を撫でて、名前を呼んだ。

 ずっと、彼女に触れていたかった。

 彼女の存在を、歴史だけでなく、この身に刻みつけよう。

 決して彼女を忘れない。

 彼女の声も、彼女の温もりも、彼女の愛らしい瞳も、彼女のなめらかな毛並みも、彼女の……全てを。


「用意は出来たかな?」


 そうしていると足音が近づき、局長とチェルノコフさんがクドリャフカを迎えにきた。


「…………はい」


 立ち上がり、クドリャフカから一歩離れる。


「ばいばい、クドリャフカ」


 トラスキンさんが、クドリャフカに小さく手を振った。

 局長に連れられていくクドリャフカに、僕は何も言えずにいた。

 何かを言ってあげたいのに、何を言えばいいのかわからない。

 彼女は、最後まで僕らにしっぽを振っている。

 みんな、沈痛な面持ちでクドリャフカを見ていた。

 まるで葬儀のようだ。

 いや、本当にこれはクドリャフカのお葬式なんだ。
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