deep forest -深い森-
「園生さま…」


栄ゑはコートをかける為に、調理場から衣装部屋へと向かう。
口裏を合わせれば良いだけで、調理場から動けない訳ではないのだ。


途中、控えめに漂う甘い香りに、頬についた小さな爪跡に、栄ゑは女性の可愛い主張を感じ、園生に恋している相手を思う。



『面倒な相手は嫌いだ』


そう言って春を売る女をご贔屓にしているようだけれど、相手が本気にならないとは限らない。



園生の見栄えが良いだけに心配になる。

栄ゑは衣装部屋に着くと、園生のコートのポケットから香を取り出し、自分の着物の袖にしまい込んだ。


園生に妙な情など、持たせる訳にはいかないのだ。

今後さらに事業を拡大してゆく、深見の為に…


つまらない火種は、周りが消してしまわなければ……
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