deep forest -深い森-
梨乃はキョトンとして、ふるふると首を振る。
泣きながらここまで来たから、地面しか見えなかった。
梨乃が空を見ると、青い空に、薄く刷毛で、何処までも何処までものばしたかのような白い雲が見えた。
「……きれい」
思わずそう呟いて、梨乃はつい側にいる蓮實の手を握ってしまった。
あまりにも普段なら感じる異性への違和感がなく、あろうことか、お父様と…間違えた。
「…ごめんなさいっ!」
握った手を、すぐに身体ごと離す。怒られるか、引き寄せられるか、そう、思ったから。
けれど蓮實は、何事もなかったかのように。
「まるで、天女の羽衣のような雲でしょう?」
と、優しく梨乃に微笑みかけた。
「……?」
その、笑みを見て。
それでもまだ梨乃は、蓮實を信用する事までは出来なかった。
自分の味方は、お父様と晶子だけなのだ。
いくらこのひとが優しいフリをしても、いつか私を裏切るに決まっている。
でも。
「きれい、ですよね。こんな空を見せられてしまうと、天の神の存在を信じなくてはいけない気分にさせられてしまうな。梨乃さまも、そう思いませんか?」
でも……