deep forest -深い森-

けれど、その女の様子には目もくれず


「跡取り殿に誉められるとは光栄」


と、涼は言い


「して。その忙しく将来有望な跡取り殿が売れない芸術家に何の用か」


と、続けて、瞳に知的な光を宿した。


「手に入れたい女が一人いる」


その涼の変化を知ってか知らずか、園生。


「その女を手に入れる為の暗号は『深い森』と『沈丁花の香り』」


「『深い森』と『沈丁花』?」


「ああ。その女には『名前がない』とも、聞いた。少々気性は荒いが雪の様な肌と西洋人形のような美しい顔。囁く声は迦陵毘迦-カリョウビンガ-だ」


「ほう・・・女になれた園生がそこまで言うか」


「ああ、極上品だ。オヤジ殿はこの暗号を解く鍵を持っておられるか?」


くすり、と、笑いながら園生。


長い腕を組みながら涼と女を見下ろす態度は、決して人に物を尋ねる態度ではないのだが。






< 46 / 49 >

この作品をシェア

pagetop