deep forest -深い森-
「結局遅れるんじゃないか。誰のせいだ誰の」
「正装用意してきて良かったですねぇ。園生さんイイ男!」
「呆れる位言われてるな」
コートを手にして、園生は軽く笑った。
桜は、ふくれて園生の手の甲をツネる。
「憎らしい!」
「でも、そんなオレに夢中なんだろう、オマエが」
「〜〜!」
園生の余裕に腹が立つ。この涼やかな目をした美しいオトコは、自分の魅力を心得ている。
「あたしを抱いたその日に、また別のオンナを抱くんですか?」
身体を売るオンナがヤキモチ妬いてどうするの… 厳しく言われた筈なのに、その台詞は園生への想いで掻き消されてしまった。
「深山咲公爵の1人娘の婚約披露パーティーだぞ?深窓の令嬢共にオレの相手が出来ると思うか?ああゆうのは結婚相手だけでいい」
「園生さん…?」
「いずれオレがジジイの言いなりになって結婚したとしても」
「……」
「オマエは可愛がりに来てやるから安心しろ」
「……!」
園生のセリフに、桜は思わず笑い泣きをしてしまった。
園生さん…勝ち気で我儘で自信家で、少しだけ、優しいヒト…
あたしの、好きなヒト…
桜は、そっと、園生のコートに香を忍ばせた…