Don’t injure me!
ナイフを握りしめたまま地面に倒れこむ壱川を前に、葡萄少年は困惑と罪悪の色を見せていた。
こいつが“噂”の【壱川 蓮】(いちかわ れん)。
掴み所のない、だけれど一度崩してしまえばあっという間に脆く崩れてしまうという。
“噂”の人物を前に、面白半分にとちょっかいをかけた自分だが、まさかこうなるとは。
葡萄少年は知らず知らずの内に冷や汗を垂らし、そして無意識に口角を上げていた。
おもしろい。
自然と、その言葉が脳裏に浮かぶ。
「レンちゃーん、やっぱ噂にあった情報通りなんだねえ。脆くて壊れやすい、だけれど『弱い』という括りに入らない。
じゃあさあ、“噂”のジンクスも本当だったりぃ?」
「うわさ…、ジンクス?」
ピクリと反応する壱川に嬉々とする葡萄少年はさらに続ける。
「そ、噂のジンクスってのはね。『壱川を倒せば強くなれる』ってーの。
それ、ダテじゃなかったりしてー!」
「…………。そんなジンクスで、そんな、噂で」
「え?」
「っ、そんなっ、誰が流したかもわからない、たかが“噂”のせいでぼくは襲われたのっ?!
そん、な…そんなあっ!
もうぼくを傷つけないで!ぼくみたいな弱い人をイジメて何が楽しいのっ!だったら、だったらぼくはっ」
右手のナイフを強く握りしめなおす壱川に、葡萄少年はようやっと自分が壱川の地雷を踏んでしまったことに気づいた。
が、既に遅い。