恋はとなりに


3月になりあたしは高校をカケル君は大学を卒業した。

あたしは大学に無事合格した。理学部は落ちて、経営学部に合格した。

カケル君は相変わらずバイト三昧らしく、たまに会っても挨拶して出かけていき帰りは疲れはてていて挨拶もままならないほどだった。


3月最後の日曜日にカケル君は家にいた。


庭のベンチに腰かけコーヒーを飲んでいた。

カケル君ちの庭は田舎だけあって広々している。小さい頃にはカケル君が遊んだであろうブランコが置いてある。

車の車庫も5.6台は置けそうだし。さらに倉庫もありとにかく広々している。

家と鈴木家の境目は特に何もないので、庭が続いているように見える。

木が何本か植えてあるだけで、玄関を出るとベンチに目を向ける。それが癖になっていた。

普段はほとんど誰も座ることのないベンチ。百日紅の木の下にあるベンチ、今日はカケル君がいた。

カケル君はあたしに気づくと右手を上げて挨拶してくれた。そしておいでおいでのジェスチャーをしている。
あたしはカケル君に近寄った。

カケル君は立ち上がり歩き出した。

車庫のシャッターをあけだした。

「さくらに見せたいものがあるんだ。」

と言って、車庫の中には見たことない車が止まっていた。
国産車のミニバン。

あたしは車を見せられても、特に驚きもなく立ちつくしていた。

「バイト代で買ったんだよ。就職祝いに少し出してもらったけど。」

「へぇ、そうなんだ。良かったね。」

何にも感動しない声色で言った。

さすがにカケル君もしびれをきらしたかのように
「鈍いな。会社車通勤することにしたんだよ!1人暮らしやめたの。」

言った。


あたしは顔色がパァンと明るくなった。

「本当に?本当に?ここにいるの?嬉しい!!!すっっっっっごく嬉しい!!!わあい。」


あたしは飛び上がって喜んだ。
興奮してカケル君の両手を握ったら大きい手にドキドキしてあわてて離した。

「さくら出かけるんじゃなかったの?」

「え?ああ、うん、コンビニ行こうとしてただけだから。」

「乗ってく?」
カケル君は車の鍵を見せてくれた。

あたしは大きくうなずいた。

2キロは車だとあっという間についてしまった。残念。

「なに買うの?」
「お昼ご飯。」
「え?そんなのうちでたべたらいいじゃん。俺つくってやるよ。」

「え、いいよ悪いし。」
「悪くないよ、俺がラーメン作ってやるから。」

「本当に?」

あたしが聞くとカケル君はニッコリうなずいた。

あたしたちは何にも買わずにコンビニを出た。そしてまた2キロの短いドライブを楽しんだ。

助手席に乗ると緊張した。








妹みたいな存在は彼女より特別かな。彼女は所詮他人だけど、妹は家族同然だし。

同然なだけで、本当は他人だけど。

でもこういう時あたしだけ緊張してて、それが余計恥ずかしい。

カケル君はなんとも思ってないなんて。1人でドキドキしてバカみたい。

なんか冷める。

一緒にドキドキできたらいいのにな。

共有できない。

ドライブはあっという間に終わってしまった。

カケル君ちに着くと誰もいないみたいでカケル君が慣れた手つきでラーメンを作って二人で食べた。
普通のインスタントラーメンよりおいしく感じた。

「カケル君彼女いないの?」

ラーメンを食べ終わって聞いた。


「いないよ。」

「じゃああたしをか・・・。」

「しない。」

あたしを彼女にしてって言おうとして食いぎみに断られた。




「俺ささくらのこと、すごく大事に思ってんだよ。わかる?」
うん、わかる。
カケル君の話に耳を傾け、心の中でうなずいた。


「だからそういうこと言わないで。」

大事にされても何で付き合うのはできないのかあたしにはわからない。

悲しくなって泣けてきた。でもフラれるのも慣れてきたような、打たれ強くなったみたい。


「だってしょうがないじゃない。好きになっちゃったんだから、あたしにはカケル君しか見えないんだから~。」

悲しいけど言いたいこと言えた。

涙がとまらなくて、カケル君はオロオロしていた。ティッシュを渡されカケル君の部屋に連れていかれた。

「ゴメンゴメン、俺が悪かった。泣かないでくれ。」



グスン。

一応泣き止んだ。

「もう帰る。ごちそうさま。」


機嫌が悪くなってカケル君といるのも腹立たしいからそう言って立ち上がると、カケル君に止められた。

「ちょっと待って。泣いたまま帰らないでよ。こんな別れかたやだから。」

「じゃあキスして。」
手首を捕まれていたので体をカケル君の正面に向けて目を閉じて唇をつきだしてみた。

手首は離され、カケル君は怒ってベッドに座った。

「バカ言うな。そんなことしねえよ!」



あたしも悪ふざけが過ぎたかな。と反省した。思い切ってやってみたけど、きっとぎこちなかったんだろうな。


「じゃあ帰るから。ケチ。」


捨て台詞を吐いたけどカケル君は追って来なかった。
カケル君は何でケンカ別れをいやがってたんだろう。
隣にいるなら、関係ないじゃない。


そのわけは4月になり判明した。
地方研修で1ヶ月かえって来ないと、母情報が入った。

ケンカ別れのまま研修に行きたくなかったんだな、と解釈した。


そういうところ可愛いよね。
嫌いになれない。なりたくない。ずっと好きでいたい。
片思いだけど。そう思う。



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