恋はとなりに

ももちゃんは、座ると「行くよ」と言って再び立ち上がった。

訳もわからず付いていくとカラオケだった。

ももちゃんは何も語らず歌いだしてあたしにマイクを渡してきた。


歌うと言うよりは画面に映る歌詞を読んでいた。


そんな状態が3時間続いた。

カラオケを出ると、ももちゃんはやっと話した。

駅で電車を待っている時。

「仕方ないよ。」
と言った。


あたしは思わず
「なにが?」

と聞き返した。

「別れは悲しいもんね。」

ももちゃんは困ったような悲しそうな顔で言った。

「河瀬から聞いてたんだー。日曜日、暇ができると会いたくなってさ、さくらんちの前行っちゃうんたって、でもさくら男と話してるんだって。好きだった人だろうって河瀬言ってた。」


ホームのベンチに座って話していた。

「……っ!それは……、」

言いかけたら、ももちゃんはあたしの左膝をぼんぽんと叩いた。なだめるように。

「話してるのはいいの。近所だし、今は同居してるし仕方ないのわかってる。でもね、その時のさくらの様子が自分といるよりも全然楽しそうだったって。それが、ショックで自分じゃどうしようもないって気づいちゃったみたいだよ。」


それを聞いたら、泣きたいのか笑いたいのかわからなくなって、多分変な顔をしていたことだろう。

確かに、河瀬君といても楽しくなかった。

楽しくないこともないけど、普通だったな。

だめだな、何にもならないな。軽い気持ちで付き合って、すぐフラれて河瀬君に悪いことしちゃったな。


お互い初めての彼氏彼女だったのに、こんなにすぐ別れちゃって。

ももちゃんと別れ電車に乗ってまっすぐ帰った。

帰ると、見慣れぬ靴が玄関にあった。

お客さん……?

家に入ると、コウタがやって来た。

「さくら、おかえり。今日な、彼女連れてきたんだ。」


コウタはハニカミながら言った。

あたしはげんなりしてしまった。

「あぁ、そお。あたし、夕飯要らないからっておばさんに言っといて。」

「どうしたんだよ、なんかあったのか?」

コウタは階段を上るあたしの手首を掴んだ。


振り向くと、コウタは真剣に心配してくれてるようで、視線が眩しく感じた。

ますますげんなりして、どうせばれるから先に言っておこうと

「今日、河瀬君にフラれたの。そんだけだからほっといて。」

と言った。
コウタは驚きと同時に手首を放した。


あたしは階段を駆け上がり部屋に入るとベッドにうつぶせて泣いた。

出そうで出てこなかった涙が溢れてきた。


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