恋はとなりに
4月はあっという間に過ぎた。
新生活は勉強に追われて、周りみたいに浮かれてなかった。
恋はしてるし、新しい出会いを求めたりしなかったらやることは勉強しかなくて。
カケル君を感じながら、大学に通った。
それが目的だったから、通う電車に乗るのも楽しかった。
百日紅の木の下のベンチは誰も座ってなくて。
木の皮が落ちているだけだった。
5月のゴールデンウィークにカケル君がお土産持って家に来た。
「さくらーカケル君が来たわよ―。」
部屋にいたらお母さんの声がして、階段を下りた。
カケル君はリビングのソファーに座りお茶を飲んでいた。
あたしの足音に振り向き、いつもの笑顔を見せた。
「さくら、久しぶり。お土産買ってきたぞ。俺はケチじゃないからな。」
カケル君が真面目な顔で言うのが可笑しくて、吹き出してしまった。
そしたらカケル君も笑った。
その夜あたしは考えた。リビングでの何気ないやりとりはカケル君によって守られているものだってこと。
あたしはうっかりカケル君に恋をして、突っ走ってきたけど。カケル君が止めてくれたから普通にしてられるものの、カケル君があの時キスしてたら、今日みたいに隣人の関係も築いていけないかも。
付き合ってる時はいいけど、別れたらあたしはここには居られない。
キスするのは簡単なはず。キスなんてカケル君には朝飯前に違いない。でもあたしには、大事なファーストキスで、一生忘れられない思い出になるはず。
そういうのも考えてるんだな。
だから妹みたいな存在ってことになってるのかもしれないと気づいた。
カケル君はいろいろ考えてるんだな。
ヤバい、ますます好きになっていく。
初恋の人がカケル君で良かった。
でもただ単にカケル君のタイプじゃないだけかもしれない。
色気ないからそうかも。
ゴールデンウィークだっていうのに
あたしは予定もないから、お母さんの畑を手伝ったりした。
そしたらその横をカケル君のミニバンがクラクションを鳴らして通り過ぎて行った。
カケル君が帰ってきたのは0時。
あたしは部屋の窓から車庫から玄関に行くまでのカケル君を見ていた。
そんなこんなでゴールデンウィークは最終日をむかえる。
あたしは清香ちゃんに呼び出され、うちから5キロはなれた大型スーパーのハンバーガー屋にお母さんに送ってもらって行った。
清香ちゃんは大学で出来た彼氏の話をたくさんしてくれた。
清香ちゃんはサークルに入り、青春を謳歌しているみたいに楽しそうだった。
清香ちゃんはブランドのバッグを持ち、流行りの服を着てメイクもラメラメでキラキラしていた。
あたしは、中学生の時から着ている、Tシャツとジーパン。スニーカーといういでだち。
清香ちゃんとバイバイして駐車場を歩く自分の姿が店のガラスに映ったのを見て、
「いろけ。」
と呟いた。
こりゃないな。